望月の蠱惑

enchantMOONに魅了されたので、先人の功績を辿って、自分も月へ到達したい。

叙景短歌と「ただごと歌」― 「今ここ」の感覚

はじめに 叙景短歌とは、わたしが勝手に考えている「短歌」のスタイルだ。 mochizuki.hatenablog.jp mochizuki.hatenablog.jp 今回のブログでは、この「叙景短歌」と「ただごと歌」との相違点の検討したい。テキストとなるのは、現代、「ただごと歌」を意識…

叙景短歌における比喩の功罪 ―toron*の比喩の的確さ

はじめに 前回に続いて、テキストは『羽と風鈴』嶋稟太郎 から抜き書きした150首だ。今回のテーマは「叙景短歌における比喩の功罪」である。 比喩は限定する 比喩の大半は、作者が伝えたい事物を読者に届ける際、その性質を限定するために用いられる。ある時…

散文に似ることを恐れない ―『羽と風鈴』嶋稟太郎 を手本に

はじめに 手本にしたい短歌を見つけた 『羽と風鈴』嶋稟太郎 |短歌|書籍|書肆侃侃房 手にしたのは偶然だった。一読して、唖然とした。 しばらくは地上を走る電車から桜並木のある街を見た これは、短歌なのか? 赤い火がときおり起こるうなぎ屋の小さな窓…

「のーぱんつらいふ」リスペクト

注意喚起 今回のブログ内容は、直接的なアダルトコンテンツへの言及はありませんが、アダルトコンテンツに関連する動画についての感想になります。 あらかじめ、ご承知おき願います。

今、再びのPoIC カード式をデジタル化する過程

はじめに PoIC(Pail of Index Card)を知ったのはずいぶん前だ。 小説を書く上でおもしろそうなことならば何でも記録していた時期で、その断片の整理方法が必要だったことと、着想を記録するフォーマットを求め、「情報収集」「アイデア整理」「発想法」「索…

変化と空想 ―永遠の見る夢

はじめに 「空想技師集団」という話を、もう長いことかいていて終わらない。今回はその続きを書くための試論だ。 忘却を越えて 登場人物も、その関係性も、当初の役割と構想も、場面の推移も、伏線も、現在の情勢も、死者と生者の区別も、時系列も、解決済か…

俳句形式と詩の親和性について―皮膚の時差とエポケー句

皮膚 榮猿丸さん『点滅』は、あとがきにニーチェの「華やぐ知恵」の一説を引用している。 furansudo.ocnk.net 「表面に、皺に、皮膚に敢然として踏みとどまること」 全ては表層であり表層の襞としてのみ存在は顕れる、と、わたしは考えており、その意味にお…

Note of the note ―ノートの調べ  p.4 書かされる「日記」に関する一考察

はじめに 「Note of the note -ノートの調べ」 と題した不定期シリーズ。このシリーズでは、著名人のノート、手稿、手帳、日記などを紹介し、そこに込められた作法と思いを検証していく。第四回目は 非常に興味深い本を読んだので、その一部をご紹介しつつ…

Note of the note ―ノートの調べ p.3 南方熊楠さんの縁起するノート

はじめに 南方熊楠について語ることは、つねに多くの事を語り落とすこと、に他ならない。だが、彼の「知性」は「粘度をもつ全体性」としてあり、微細なことについても、広大なことについても、その「全体」が密接な連関をもって蠢くことによって、最適解を構…

Note of the note ―ノートの調べ  p.2 澁澤龍彥さんの創作ノート

はじめに 「Note of the note -ノートの調べ」 と題した不定期シリーズ。このシリーズでは、著名人のノート、手稿、手帳、日記などを紹介し、そこに込められた作法と思いを検証していく。第二回目は 澁澤龍彥さんの「創作ノート」を堪能する。 出典 KAWADE…

Note of the note ―ノートの調べ p.1 高山宏さんのコンポジション

はじめに 「Note of the note -ノートの調べ」 と題し今回から始める不定期シリーズ。 このシリーズでは、著名人のノート、手稿、手帳、日記などを紹介し、そこに込められた作法と思いを検証していく。 第一回目は 高山宏さんの「コンポジション」を堪能す…

空想技師の「砂」に関する断片

その砂(以下「砂」)は「虹の亡霊(タワブ・アルマユィトゥ)」「神の試練(ミシナトゥ・ムミン・アフラ)」「亡者への褒美(アイプティマタトゥ・ユアマ)」などと呼称。 「砂」は、チベット密教ゾクチェンにおけるラマ僧の「光の夜(ダウ・アッラユル)」…

価値観は本当に多様化したといえるのか ―ダイバーシティへの違和感

はじめに 「ダイバーシティ」という言葉が馴染まない。むしろ価値観は細分化されて互いに相容れないまま硬直化しているのではないか、と感じる。 価値観の多様化について、ここでは、人種や宗教に関して保留して「性の多様性」と「自己実現の多様性」を考え…

ブラックリスト ファイナルシーズン ―叙事詩としてのレイモンド・レディントン

はじめに ブラックリストについては、一度書いたことがある。 mochizuki.hatenablog.jp そして先日、ファイナルシーズンを全て見終えた。このファイナルシーズンは、ほとんど「レイモンド・レディントン」という名のスピンオフ作品と言ってよいものだと思う…

新傾向といふ新しさの類似性 ―『植物祭』前川佐美雄さんから野村日魚子さんそして河東碧梧桐さん

はじめに 似ていることは悪いことではない。似てくることをおもしろいと思う。似ていると感じる私の感覚が固着しているのかもしれないし、定型を脱しようとする試みが普段意識されることのない日本語の天井にぶつかって似通った放物線に収斂してゆくのかもし…

教養小説なんて要らない

はじめに kotobank.jp 世の中のほとんどすべてのストーリーがこのタイプに分類される。わたしはこの手のストーリーにうんざりしている。なぜならみんな同じだからだ。 気味の悪さ 未成熟者が経験を経て成熟する。クリアできなかった課題をクリアできるように…

「乳房切除す母よ芒の先に絮」が嫌な理由

はじめに 10月5日。普段は見ないようにしているプレバトの金秋戦2023予選を、たまたま見ていた。お題は「母の背中」。 夏井いつきさんの添削は本当にすごいと思う。 母の背は硬し吾を待つ秋夜の背 中田喜子さんの句(添削後) この「背」のリフレインなんて…

兵庫ユカさん『七月の心臓』から

はじめに もしかしたらこのブログで兵庫ユカさんの『七月の心臓』をとりあげていなかったのではないかと記事検索をかけてみたら、やはりとりあげていないことが分かった。だから、今回はこの歌集のことを書く。 作者のことや、この歌集のことは、検索すれば…

語句をシェアしてパズルのように ―意味を窯変させる技法

はじめに 自動生成される俳句や短歌。それらは、語と語のなじみある繋がりを無視できるところに良さがある。日常の脳で、語と語をそのような関係性に置くことは規制されてしまう。この規制が言語ゲームのルールだと思い込まされてしまうネイティブにこそ、ラ…

俳人 北大路翼さん

はじめに 先ごろ、こんな記事を書いた ずっと、北大路翼さんの句集を写していた。『天使の涎』『時の瘡蓋』『見えない傷』北大路翼さんの俳句が好きで、あえて言うならば「清濁併せ飲む」感じが、松尾芭蕉を継ぐという矜持を感じさせてくれる。全身小説家な…

仲良き事を慈しむ感情 ―枢木あおいさんと松本いちかさん

注意)今回のブログは成人向け映像作品に言及したものであり、関連リンクも貼っておりますことを、予めお断りしておきます。

大同小異の世界モデル

はじめに 好きな物を書き写す、描き写す。これは幼稚園の頃からの習いだった。ヒーローも、キャラクターグッズも、かわいい子も、その裸足のサンダルも、夕焼けも、ケーキも。 チラシの裏に書き殴ったつたないお絵描きの域を出ないものだったが、わたしは、…

可能なる写生 ―季語について

ヤンシユ来る今日はギターを弾かない日 ヤンシユ。これは季語「渡り漁夫」の傍題だ。 角川の合本俳句歳時記には 「北海道で、春先鰊の漁期が近づくと、東北地方の農民が、出稼ぎにぞくぞくやって来る。これを渡り漁夫または「ヤンシユ」というのである」 と…

観念論的唯物論 ―イデアと名前

はじめに 理解とは現象を名づけること、ということになっている。 「あの空の七色のアーチは何かしら」「あれは虹さ」ここで、「虹」という名を知ったことで、それまでその名前を知らなかった人の知見の変化量は「虹」という名前が増えただけのことだ。 だが…

大地震 トンボ ユウクリ 飛でいる ―熊谷守一語録

ことあるごとに思い出す。熊谷守一さんの作品は言葉によらない俳句であると思う。わたしは既に、熊谷守一さんについてのまとまった感想ブログを書いていたと思っていたのだが、過去記事検索してみると、まだ手付かずだった。 熊谷守一さんと高野素十さんとを…

自由律俳句を定形に戻してみる ―『井泉水句集』を読みながら

はじめに 昭和十二年一月七日発行 新潮文庫の『井泉水句集』は、いただいたものだ。この中の 星が出てくる砂にソーダ水の椅子 (p145) は、わたしに「キュビズム文」なる方法論を授けてくれた一句であるが、それはまた別のお話で。 わけのわからない衝動 座右…

皮膚についての著作を考える ―『皮膚、人間のすべてを語る』の個人的理想形とは

はじめに この本を借りて、読み通せなかった。 www.msz.co.jp理由は、こうした海外専門書にありがちな、妙に砕けた個人的エピドードの挿入頻度もさることながら、痒い所に手が届かない歯がゆさに、我慢できなくなったためである。 もちろん、本書に期待する…

響き合う引力 ――写真俳句と未整理のロードマップ

はじめに 先だってのプレバト(2023年1月26日放送分)の俳句で夏井先生が「写真俳句の評価基準」をおっしゃっていて、ひじょうに納得がいった。夏井先生の評価基準はブレが少なく、ひじょうに理論的で、的確な添削と相まってひじょうに説得力がある。…

知恵と慈悲〈ブッダ〉 再読中

はじめに 「無我」とは全てが「無常」であるとの認識により導き出される姿勢であり、「無常」とは「縁起」という存在論が示す解答である。 宗教とセミナー(余談) わたしは存在論として仏教の法のラインに立つ者であることを自覚している。つまり、仏教を直…

穴埋め問題 ―『短歌の不思議』東直子

はじめに How to 短歌。そこには人それぞれにルールがある。文語か口語かなどの形式的な選択はもとより、短歌の文体について問えば、千差万別の目標と正解例が得られるだろう。だから、人はそれぞれが目指す短歌に沿ったHow to 本を選ばなければならない。「…