望月の蠱惑

enchantMOONに魅了されたので、先人の功績を辿って、自分も月へ到達したい。

価値観は本当に多様化したといえるのか ―ダイバーシティへの違和感

はじめに 「ダイバーシティ」という言葉が馴染まない。むしろ価値観は細分化されて互いに相容れないまま硬直化しているのではないか、と感じる。 価値観の多様化について、ここでは、人種や宗教に関して保留して「性の多様性」と「自己実現の多様性」を考え…

ブラックリスト ファイナルシーズン ―叙事詩としてのレイモンド・レディントン

はじめに ブラックリストについては、一度書いたことがある。 mochizuki.hatenablog.jp そして先日、ファイナルシーズンを全て見終えた。このファイナルシーズンは、ほとんど「レイモンド・レディントン」という名のスピンオフ作品と言ってよいものだと思う…

新傾向といふ新しさの類似性 ―『植物祭』前川佐美雄さんから野村日魚子さんそして河東碧梧桐さん

はじめに 似ていることは悪いことではない。似てくることをおもしろいと思う。似ていると感じる私の感覚が固着しているのかもしれないし、定型を脱しようとする試みが普段意識されることのない日本語の天井にぶつかって似通った放物線に収斂してゆくのかもし…

教養小説なんて要らない

はじめに kotobank.jp 世の中のほとんどすべてのストーリーがこのタイプに分類される。わたしはこの手のストーリーにうんざりしている。なぜならみんな同じだからだ。 気味の悪さ 未成熟者が経験を経て成熟する。クリアできなかった課題をクリアできるように…

「乳房切除す母よ芒の先に絮」が嫌な理由

はじめに 10月5日。普段は見ないようにしているプレバトの金秋戦2023予選を、たまたま見ていた。お題は「母の背中」。 夏井いつきさんの添削は本当にすごいと思う。 母の背は硬し吾を待つ秋夜の背 中田喜子さんの句(添削後) この「背」のリフレインなんて…

兵庫ユカさん『七月の心臓』から

はじめに もしかしたらこのブログで兵庫ユカさんの『七月の心臓』をとりあげていなかったのではないかと記事検索をかけてみたら、やはりとりあげていないことが分かった。だから、今回はこの歌集のことを書く。 作者のことや、この歌集のことは、検索すれば…

語句をシェアしてパズルのように ―意味を窯変させる技法

はじめに 自動生成される俳句や短歌。それらは、語と語のなじみある繋がりを無視できるところに良さがある。日常の脳で、語と語をそのような関係性に置くことは規制されてしまう。この規制が言語ゲームのルールだと思い込まされてしまうネイティブにこそ、ラ…

俳人 北大路翼さん

はじめに 先ごろ、こんな記事を書いた ずっと、北大路翼さんの句集を写していた。『天使の涎』『時の瘡蓋』『見えない傷』北大路翼さんの俳句が好きで、あえて言うならば「清濁併せ飲む」感じが、松尾芭蕉を継ぐという矜持を感じさせてくれる。全身小説家な…

仲良き事を慈しむ感情 ―枢木あおいさんと松本いちかさん

注意)今回のブログは成人向け映像作品に言及したものであり、関連リンクも貼っておりますことを、予めお断りしておきます。

大同小異の世界モデル

はじめに 好きな物を書き写す、描き写す。これは幼稚園の頃からの習いだった。ヒーローも、キャラクターグッズも、かわいい子も、その裸足のサンダルも、夕焼けも、ケーキも。 チラシの裏に書き殴ったつたないお絵描きの域を出ないものだったが、わたしは、…

可能なる写生 ―季語について

ヤンシユ来る今日はギターを弾かない日 ヤンシユ。これは季語「渡り漁夫」の傍題だ。 角川の合本俳句歳時記には 「北海道で、春先鰊の漁期が近づくと、東北地方の農民が、出稼ぎにぞくぞくやって来る。これを渡り漁夫または「ヤンシユ」というのである」 と…

観念論的唯物論 ―イデアと名前

はじめに 理解とは現象を名づけること、ということになっている。 「あの空の七色のアーチは何かしら」「あれは虹さ」ここで、「虹」という名を知ったことで、それまでその名前を知らなかった人の知見の変化量は「虹」という名前が増えただけのことだ。 だが…

大地震 トンボ ユウクリ 飛でいる ―熊谷守一語録

ことあるごとに思い出す。熊谷守一さんの作品は言葉によらない俳句であると思う。わたしは既に、熊谷守一さんについてのまとまった感想ブログを書いていたと思っていたのだが、過去記事検索してみると、まだ手付かずだった。 熊谷守一さんと高野素十さんとを…

自由律俳句を定形に戻してみる ―『井泉水句集』を読みながら

はじめに 昭和十二年一月七日発行 新潮文庫の『井泉水句集』は、いただいたものだ。この中の 星が出てくる砂にソーダ水の椅子 (p145) は、わたしに「キュビズム文」なる方法論を授けてくれた一句であるが、それはまた別のお話で。 わけのわからない衝動 座右…

皮膚についての著作を考える ―『皮膚、人間のすべてを語る』の個人的理想形とは

はじめに この本を借りて、読み通せなかった。 www.msz.co.jp理由は、こうした海外専門書にありがちな、妙に砕けた個人的エピドードの挿入頻度もさることながら、痒い所に手が届かない歯がゆさに、我慢できなくなったためである。 もちろん、本書に期待する…

響き合う引力 ――写真俳句と未整理のロードマップ

はじめに 先だってのプレバト(2023年1月26日放送分)の俳句で夏井先生が「写真俳句の評価基準」をおっしゃっていて、ひじょうに納得がいった。夏井先生の評価基準はブレが少なく、ひじょうに理論的で、的確な添削と相まってひじょうに説得力がある。…

知恵と慈悲〈ブッダ〉 再読中

はじめに 「無我」とは全てが「無常」であるとの認識により導き出される姿勢であり、「無常」とは「縁起」という存在論が示す解答である。 宗教とセミナー(余談) わたしは存在論として仏教の法のラインに立つ者であることを自覚している。つまり、仏教を直…

穴埋め問題 ―『短歌の不思議』東直子

はじめに How to 短歌。そこには人それぞれにルールがある。文語か口語かなどの形式的な選択はもとより、短歌の文体について問えば、千差万別の目標と正解例が得られるだろう。だから、人はそれぞれが目指す短歌に沿ったHow to 本を選ばなければならない。「…

オムライス ――あるAV作品のAV部分以外の魅力について

はじめに 今回のブログは、アダルトビデオ作品への言及を含みます。該当作品へのリンク、及び露骨な性的描写などは行いませんが、こういった内容を快く思わない方は閲覧をご遠慮ください。 わけのわからない魅力 『若かりし頃の母親に似てきた娘との性交』と…

短詩のジレンマ ――ツンデレの極北

はじめに 芭蕉は支邦風の思想家で、物質には満足してゐなかつた。しかし、ほろぶことの迅いものに、限りない生命を観たので、地上を愛することが大きかつた。無限を、無限でないものの中で愛した。『調和の詩人』三木露風 上記引用は、今回のブログに直接は…

俳句コレクション 『人妻 92句』

はじめに 俳句のコレクションは楽しい。 そして、将来自分が作りたい俳句のテーマにおいて、類句、類想を避けるための準備にもなる。 わたしは、「団地妻と蒸発夫」をテーマとした俳句集を作ってみたいと思っていて、今回「人妻」に関する俳句を集めてみた。…

依他起性 ―フンボルト(という博物学者という点P)の冒険

はじめに 『フンボルトの冒険 自然という〈生命の網〉の発明』アンドレア・ウルフ著 鍛腹多惠子訳 NHK出版 www.nhk-book.co.jp 古来より、博物学者は蒐集する。整理・分類の情熱は、分けへだてるためではなく、共通点を見出すためである。なぜならば、この蒐…

歌留多遊び ―寺山修司さんの短歌を教材に

はじめに 思想家が陳腐な語や出来合いの表現を自分に禁じようとするのは、それらのせいで精神がなにごとにも驚かなくなり、日常生活が実用的なものとなるからだが、芸術家も同じようにして、不定形な物、つまり独特のかたち(フォルム)をもったものを研究す…

まつすぐな道でさみしい のか ―共感の言語化について

はじめに 大晦日。昨年に続いてtwitter上で #大晦日108首チャレンジに参加した。 今回は徹底的に「今」の気持ちや状況をそのまま出してみた。短歌の態を成していないいないものをTL上に次々と放流し、煩悩を祓う、悩みを祓う、短歌に対する凝り固まった…

波頭の橋頭保としての『認知症世界の歩き方』

これは座右に置くべき、こわい本だ。 wrl.co.jp 唯脳論だとか、唯心論だとか、VRだとか、すべてこの世は虚構だとか、そういう言説は理解できるところもあって、結局は「脳」だよ。という感覚は理解できていたつもりだったのだが、それが現実の、ひじょうに身…

盲目の俳句・短歌集 ―視覚障害者が詠む俳句三百句・短歌二百四十首 発行メタ・ブレーン

はじめに 探していたのだ。目が不自由な方の句集を。 俳句はあまりに視覚偏重にすぎないか、というのがその動機だ。 もしかしたら、言葉(名前)そのものが、視覚的なのかもしれない。声字と書字という観点(という熟語もまた視覚偏重なのだが)から、そう考…

積読リスト2021

はじめに 買ってあるのにまだ読んでない本を積読と呼ぶが、「読みたいと思うがまだ読んでいない本のリスト」も積読なのではないかと思う。新刊ばかりではなく、むしろ古書店や図書館に軸足を置いて「読みたい」本をリストにする。その際に目安になるのは、や…

オーパーツ俳句 ―寺山修司俳句全集から拾う

はじめに 俳句の新しさとは、たとえばこういった俳句に驚くところに感じる 口淫は嘔吐に終はる麦茶かな 星野いのり 起立礼着席青葉風過ぎた 神野紗希 ヒアシンスしあわせがどうしても要る 福田若之 簡単に口説ける共同募金の子 北大路翼 パラフィン紙夏の名…

ブラックリスト8までの感想 ―失敗した贋の終わり(cf.蓮實重彦さん)に始まる可能性

今回のブログはドラマ『ブラックリスト 8』の最終回ネタバレを含みます。ご承知おき下さい。 はじめに ブラックリストというドラマをCSで見ていて、先日、シーズン8の最終回前と最終回を続けて見終えたところだ。 このドラマは当初、ユニークな犯罪者と組織…

詩は俳句の(人の)形に写り込む―『素十全句集 秋』より「月」の俳句より

はじめに 英国式庭園殺人事件(グリーナウェイ監督)では、庭園を写生する絵師が写生機械と化して写生に没頭するあまり、自らが殺人事件の目撃者となっていることにその時は気付かぬまま、その克明な記録を残していたという、重要な要素があったと記憶してい…