はじめに
俳句のコレクションは楽しい。
そして、将来自分が作りたい俳句のテーマにおいて、類句、類想を避けるための準備にもなる。
わたしは、「団地妻と蒸発夫」をテーマとした俳句集を作ってみたいと思っていて、今回「人妻」に関する俳句を集めてみた。
今後も、興味あるテーマによって、こうしたコレクションを行っていきたい。
人妻俳句92句
句 | 作者 | 季語 | 季 |
春の句 13句 | |||
人妻の蝌蚪いぢめたき真昼時 | 鍵和田ゆう子 | 蝌蚪 | 春 |
誰も人妻目つむりて聴く遠蛙 | 小坂順子 | 遠蛙 | 春 |
人妻の突つかけ下駄や独活の花 | 清水基吉 | 独活 | 春 |
経師屋の恋ふは人妻紙風船 | 曽根富久恵 | 紙風船 | 春 |
人妻の老いけり御忌の朝詣 | 大魯 | 御忌 | 春 |
人妻の爪たてけぶる夏蜜柑 | 鷹羽狩行 | 夏蜜柑 | 春 |
辛夷咲き胸もと緩し人妻は | 中村苑子 | 辛夷 | 春 |
人妻に春の喇叭が遠く鳴る | 中村苑子 | 春 | 春 |
わが妻に人妻に水温みけり | 野村喜舟 | 水温む | 春 |
人妻となりて暮春の欅かな | 日野草城 | 暮春 | 春 |
人妻の男呼ぶなる汐干哉 | 正岡子規 | 汐干 | 春 |
人の妻を盗む狐や春の月 | 松瀬青々 | 春の月 | 春 |
石垣の家黄梅と人妻と | 山下樹実雄 | 黄梅 | 春 |
夏の句 39句 | |||
人妻よ薄暑の雨に葱や取る | 飯田蛇笏 | 薄暑 | 夏 |
人妻と刻をつひやす氷水 | 上田五千石 | 氷水 | 夏 |
ざらざらと鳴る人妻の麦藁帽 | 櫂美智子 | 麦藁帽 | 夏 |
ゑんどうむき人妻の悲喜いまはなし | 桂信子 | 豌豆 | 夏 |
訪ねきてはいつも端居をして人妻 | 川島彷徨子 | 端居 | 夏 |
人妻に筍もだえつつ煮られ | 楠本憲吉 | 筍 | 夏 |
人妻よかがめば蛍鼻さきに | 楠本憲吉 | 蛍 | 夏 |
人妻のこれを饗応す茄子漬 | 黒柳召波 | 茄子漬 | 夏 |
ゆつくりと絵日傘たたむ妊婦かな | 桑山撫子 | 絵日傘 | 夏 |
人妻に致死量の花粉こぼす百合 | 齊藤愼彌 | 百合 | 夏 |
トマト買う若き妊婦の指えくぼ | 識名梅子 | トマト | 夏 |
隣席は五月の妊婦ヴィヴァルディ | 鈴木鷹夫 | 五月 | 夏 |
水中花妻の妹の子を膝に | 鈴木花蓑 | 水中花 | 夏 |
人妻のあだに美し菖蒲園 | 鈴木花蓑 | 菖蒲園 | 夏 |
蛇が〈隠れて生きよ〉と人妻に | 攝津幸彦 | 蛇 | 夏 |
人妻の素足の季節硝子の家 | 鷹羽狩行 | 素足 | 夏 |
一斉に団地の主婦の草を刈る | 武田光子 | 草刈 | 夏 |
人妻の銀座にキネマ・ソーダ水 | 筑紫磐井 | ソーダ水 | 夏 |
人妻の手首は細し青嵐 | 筑紫磐井 | 青嵐 | 夏 |
遠花火人妻の手がわが肩に | 寺山修司 | 遠花火 | 夏 |
人妻のうなじ澄みたる牡丹かな | 永井龍男 | 牡丹 | 夏 |
人妻に蝶やトンボの影さして | 鳴戸奈菜 | 蝶 | 夏 |
黴に臥す人妻を見て恋ふ夜なり | 萩原麦草 | 黴 | 夏 |
うつむけば人妻も夏めけるもの | 長谷川春草 | 夏めく | 夏 |
水着着て人妻なれや母なれや | 林原耒井 | 水着 | 夏 |
檜笠着て頬の若さや山家妻 | 原石鼎 | 編笠 | 夏 |
人妻の眉毛夾竹桃憂しと | 細見綾子 | 夾竹桃 | 夏 |
人妻の茅の輪抜けて戻りけり | 松瀬青々 | 茅の輪 | 夏 |
しやがに降る雨は人妻にしか降らぬ | 三橋鷹女 | 著莪の花 | 夏 |
著莪咲くと人妻はする青い衿 | 三橋鷹女 | 著莪の花 | 夏 |
虹消えて了へば還る人妻に | 三橋鷹女 | 虹 | 夏 |
人妻にきぞの日はあり著莪の花 | 三橋鷹女 | 著莪の花 | 夏 |
人妻は髪に珊瑚や黄雀風 | 三橋鷹女 | 黄雀風 | 夏 |
ともに昼寝せし人妻の海を見る | 山口誓子 | 昼寝 | 夏 |
人妻も頭髪饐ゆる夏となりぬ | 山口誓子 | 夏 | 夏 |
横縞は妻縦縞は人妻単帯 | 山口青邨 | 単帯 | 夏 |
人妻となりて守宮の腹親し | 山根真矢 | 守宮 | 夏 |
人妻の暁起きや蓼の雨 | 与謝蕪村 | 蓼 | 夏 |
キャベル買へり団地の妊婦三人来て | 草間時彦 | キャベツ | 夏 |
秋の句 18句 | |||
草市の人妻の頬に白きもの | 飯田蛇笏 | 草市 | 秋 |
盆踊り稽古に励む団地妻 | 井上あき子 | 盆踊り | 秋 |
人妻をむんずと借りて運動会 | 太田寛郎 | 運動会 | 秋 |
人妻や白桃に刃をためらはぬ | 鍵和田ゆう子 | 白桃 | 秋 |
人妻に流離もなくて鴈帰る | 金久美智子 | 雁帰る | 秋 |
人妻の髪に挿す都忘れとや | 金久美智子 | 都忘れ | 秋 |
人妻の匂へる夜や西鶴忌 | 河野南畦 | 西鶴忌 | 秋 |
人妻と足結び合ふ運動会 | 貞方義昭 | 運動会 | 秋 |
いまは人妻藁塚に罪一つ秘め | 鈴木正治 | 藁塚 | 秋 |
人妻のけふ来て昨日野分吹く | 攝津幸彦 | 野分 | 秋 |
人妻の隣うらやむきぬた哉 | 高井几菫 | きぬた | 秋 |
人妻となりにしひとと十三夜 | 田中冬二 | 十三夜 | 秋 |
仄暗き人妻となり鳥兜 | 鳴戸奈菜 | 鳥兜 | 秋 |
人妻の乳房のむかし天の川 | 林田紀音夫 | 天の川 | 秋 |
旅に出て人妻小萩もとびて越ゆ | 平井さち子 | 萩 | 秋 |
人妻の袂の丸み燕去る | 三橋鷹女 | 燕帰る | 秋 |
水草の紅葉明日より人妻に | 望月一美 | 水草紅葉 | 秋 |
人妻に手荒く曳かれ運動会 | 山本白羊 | 運動会 | 秋 |
冬の句 14句 | |||
角巻のすでに人妻われを過ぐ | 青木泰夫 | 角巻 | 冬 |
海鞘ふふむ人妻の枷そこはかと | 岩永佐保 | 海鞘 | 冬 |
久女忌や会に三人教師妻 | 大畑峰子 | 久女忌 | 冬 |
人妻は大根ばかりをふぐと汁 | 其角 | 河豚汁 | 冬 |
冬萌ゆるなか人妻の黙とあり | 楠本憲吉 | 冬萌 | 冬 |
冬すみれ濃し人妻となりしのち | 嶋田麻紀 | 冬すみれ | 冬 |
人妻の風邪声艶にきこえけり | 高橋淡路女 | 風邪 | 冬 |
スケートの濡れ刃携へ人妻よ | 鷹羽狩行 | スケート | 冬 |
人妻の声やはらかき小春凪 | 谷口桂子 | 小春 | 冬 |
国境に雪来しを人妻と仰ぐ | 橋 閒石 | 雪 | 冬 |
短日の人妻の素足なまなまし | 藤木清子 | 短日 | 冬 |
人妻のぬす人にあふ枯野哉 | 正岡子規 | 枯野 | 冬 |
掌の厚き人妻まじる忘年会 | 右城暮石 | 忘年会 | 冬 |
人妻に囲まれ滝は涸れてをり | 横山白虹 | 滝涸る | 冬 |
新年の句 2句 | |||
ゆらゆらと人妻の香や初句会 | 鈴木鷹夫 | 初句会 | 新 |
鏡台祝ふ人妻なん宮仕へせし | 松原射石 | 鏡台祝 | 新 |
無季の句 6句 | |||
人妻におどろく鶏の後頸 | 宇多喜代子 | 無 | |
人妻の黒眼はつきり海を出る | 鷹羽狩行 | 無 | |
人妻のうつくしいのは貌ばかり | 筑紫磐井 | 無 | |
人妻は紅茶に毒を。我に戀を。 | 筑紫磐井 | 無 | |
目を病める人妻襲うさざなみよ | 鳴戸奈菜 | 無 | |
人妻の夕白樺のたきつけの袋 | 喜谷六花 | 無 |
おわりに
運動会3句 著莪の花3句。というのがおもしろい。
また、作者毎でソートしてみるのも発見があるかもしれない。