望月の蠱惑

enchantMOONに魅了されたので、先人の功績を辿って、自分も月へ到達したい。

2021-01-01から1ヶ月間の記事一覧

宮沢賢治の短歌(序説) ―不定形生命体という主体

はじめに このところ、短歌入門関連の書籍を立て続けに読んでいて、直近に読み終えたのは、この本だった。 www.kadokawa.co.jp 短歌の入門書としてどうか、というのは人それぞれにあうあわないがあるだろう。わたしは、俳句や短歌の入門書を読んで、作りたく…

挟み撃ちをスライスしてなんとなくクリスタルな純度98%の小説 ―『ヴィトゲンシュタインの愛人』 デイヴィッド・マークソン

はじめに 純度の高い小説は燃える。実際、この小説では本や家がよく燃える。そしてそこに残った焼け跡は、焼ける前よりも豊かだ。それは余剰によって豊かなのではなく、消尽によって豊かにされるしかなかった。抉られた傷に再生する肉片がつねに盛り上がるよ…

鏡はツルツルだということ ―『鏡と皮膚 芸術のミュトロギュア』

はじめに 本書のタイトルをみて、読まねばと思って読んだ。以下はその感想とまとめ。 www.chikumashobo.co.jp 鏡は皮膚とは違う。見られるモノである、という一点を除いては。 シュミラークルにまつわる議論は、だから退屈だ。むろん本書はそのような退屈さ…

塚本邦雄『秀吟百趣』メモ 二

前回からの続きです。 飛鳥田孋無公(あすかたれいむこう) さびしさは星をのこせるしぐれかな 霧はれて湖におどろく寒さかな 河の水やはらかし焚火うつりゐる 返り花薄氷のいろになりきりぬ 秋風きよしわが魂を眼にうかべ 昭和五年三十五歳の作。この3年後…