望月の蠱惑

enchantMOONに魅了されたので、先人の功績を辿って、自分も月へ到達したい。

皮膚についての著作を考える ―『皮膚、人間のすべてを語る』の個人的理想形とは

はじめに

この本を借りて、読み通せなかった。

www.msz.co.jp理由は、こうした海外専門書にありがちな、妙に砕けた個人的エピドードの挿入頻度もさることながら、痒い所に手が届かない歯がゆさに、我慢できなくなったためである。

もちろん、本書に期待するわたしの勝手な希望との食い違いなど、著者の知ったことではないだろうし、わたしが文句をつける筋合いのものでもない。読み方は読者の裁量に任されているので、その権利を行使したまでのことである。

「自分」が皮膚の内側に隠れていると思ったら大間違い。皮膚こそ、自分そのものであり、つねに私たちを語っている。とくにアイデンティティとの関連では皮膚の色に格別の関心が置かれがちだが、皮膚はもっとずっと多彩なやり方で私たち自身を形作っている。そして、健康、美容といった生活面はもちろんのこと「哲学や宗教、言語にまで単なる物質的なあり方をはるかに超えた影響力を及ぼしている」と著者は語る。(裏表紙より)

上記の見解にはまったく異論はない。だから読もうと思ったのである。だが、以下にしめすそれぞれの項の記述内容は、どうも散漫であるように感じられた。思うに、史実や、皮膚の病変といった、広い意味での症例分析にとらわれ過ぎていたのではないかという印象を受ける。つまり、皮膚の現実を拡張するにはいたらず、皮膚の狭い意味での皮膚とその機能としてしか捉えられていなかったのではないか。

本書が提供するのは、著者の専門である科学・医学はもちろん、社会・心理・歴史などの領域を含む、広大な皮膚の世界を巡る旅だ。ポケットから鍵を取り出してドアを開けるという動作一つとっても、皮膚がどれほど精妙に機能しているか、もしあなたが意識したことがなかったなら、きっとこの本の随所に発見が待っている。
卓越した案内人である著者とともにこの大きな旅を終えたときには、知りたかったことすべてを見て回ったように感じられるだろう。自分の皮膚の実力を知るだけで、私たちは小さな支えを得る。なぜなら、「それはつまり、私たちが何者であるかを理解すること」だからだ。
米英で大好評を得た2019年《英国王立協会科学図書賞》最終候補作の、待望の邦訳。(みすず書房の紹介文より抜粋)

と紹介されてはいるが、皮膚がもつさまざまな文脈を縦横に語れるだけの博識さが欠けていたのではないか、と思うのである。

本書の副題は『万能の臓器を巡る10章』であり、実際、10章仕立てとなっている。

今回のブログでは本書の目次に従って、それぞれの項目で私が深めたかったテーマをメモしておこうというものだ。それはさまざまな断片であり、思いつきであり、もしかしたらカン違いの列記となるだろう。それでも、知識が他の知識との連関によってのみ生ずる創発的なものであるとすれば、こうしたフックはいくつあっても無駄にはならない。たとえ、誤りであったとしても。

第一章 マルチツールのような臓器

境界としての皮膚・触角センサーとしての皮膚・体内環境調整装置としての皮膚・サインとしての皮膚・皮膚の基本的説明

第二章 皮膚をめぐるサファリ

傷と再生機能・寄生虫について・心身の状態と皮膚との関係・皮膚そのものの性状について・角質化について

第三章 腸感覚

脳としての腸・脳としての皮膚・人体における最大の臓器としての皮膚・腸内環境が皮膚に及ぼす影響・皮膚は広がった脳であること・腸にとっては、チューブの内側が外部であること。皮膚とは裏返った腸であること・脳は内向する皮膚であり引き籠りの腸であること・口腔内と直腸内における皮膚感覚について

第四章 光に向かって

嫌光性の生物の皮膚・日焼け・外的環境と皮膚の順応性・皮膚にとって太陽とは・

第五章 老化する皮膚

皺・シミ・たるみ・乾燥・鈍感になる皮膚・皮膚移植について・美容整形と皮膚・人体内部との関連性について

第六章 第一の感覚

触角に関する網羅的記載(この章のみ、有用な記載であった)

第七章 心理的な皮膚

感情と皮膚変化・皮膚の視覚的・嗅覚的・触覚的相互作用について・好ましい皮膚と好ましからざる皮膚・ボディーピアス、タトゥーなどの心理・皮膚についてのコンプレックス

第八章 社会の皮膚

外見による差別意識・白か黒か・皮膚にとって美とは何か・皮膚に変異の起こる病気の患者への差別意識について・公衆衛生意識という遺伝子・虎の威を借るキツネ、羊の皮を被った狼、化けの皮

第九章 分けへだてる皮膚

個とは・阿頼耶識に始まる分節・細胞壁から始まる分節・半開放系システムとしての皮膚・国家、社会、民族の皮膚・皮を剥ぐという行為

第十章 魂の皮膚

内面など存在しない・すべては顕れている・聖骸布・フル=フロンタルという欺瞞・イエス=キリストの皮膚・天使の皮膚・神は皮膚を持つか・皮膚と皮膚との接触がもたらす魂の輝きについて

おわりに

皮膚は腸と並んで、わたしの問題意識にとっては最重要器官である。それは視覚の重要性に対抗するわたしの問題意識である。光には重力をもって対抗し、視覚には聴覚をもって対抗する。そして、皮膚と腸は「社会性」にリンクしている、とわたしは考える。それは「触覚」の重要性を明らかにする論点でもあり、「愛憎」に関する感情のキーでもあるだろう。

社会は、腸と皮膚でだいたい理解できる。とわたしは思うのだ。

 

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