望月の蠱惑

enchantMOONに魅了されたので、先人の功績を辿って、自分も月へ到達したい。

懐かしさの文法に関する雑記

はじめに

「懐かしさ」は奇妙だ。

このことに引っかかり、解明したいと考えている人は多いようで、「懐かしさ」を検索すると、たくさんの検証、感想、ブログが出てくる。

上位に掲載される、yuta suzuki 様の 

インターネットと広告と空と珈琲と

(その後、yun cafe へ移転なさっています)

ameblo.jpでは、京都大学での研究へのリンクを張っていらっしゃいました。

なつかしさは何によって引き起こされるのかを明らかにしました — 京都大学

ですが、ブログ主様もおっしゃっているように、この大学の研究報告では、解明されていない「懐かしさ」の要素が多く、どちらかというと、私の関心はその解明されていない方に強いのでした。

考えてみたいのは、未経験なはずの事物に対する「懐かしさ」の理由です。

懐かしさの列挙

1.二階堂酒造麦焼酎「二階堂」のCMの懐かしさ。

www.youtube.com

2.生まれる前の音楽 オールデイズヒット の懐かしさ

3.チャイコフスキーは懐かしくないが、この曲は懐かしさを感じる

www.youtube.com

4.『ハートカクテルわたせせいぞう の世界観の懐かしさ

www.youtube.com

5.明治は懐かしいが、江戸は懐かしくない

6.トトロの世界観は懐かしいが、ナウシカの世界観は懐かしくない。
ナウシカそのものは懐かしい)

7.夕暮れは懐かしいが、朝焼けは懐かしくない。

8.あるあるネタは懐かしネタに重なる部分が多い

9.秋の懐かしさと、夏の懐かしさとは性質が違う

懐かしさの手掛かりとなると思われる疑問

1.江戸時代の人は何を懐かしく感じたのか?

2.田舎の懐かしさとは、時間的へだたりか、空間的隔たりか?

3.世代が共有する懐かしさとは文化的なものに限定されるか?

4.未知なものについて、「先進的」か「旧式」かの判断がつけられるのはなぜか。またその判断は正しいものか。

5.懐かしさは必ず、好ましいのか?

6.未来を想定することが困難で、過去に想いを寄せるほうが好ましい理由は?

7.追憶は老人に許された慰撫であるなら、人類の種としての老いは、懐かしさを加速させるといえるか?

8.技術革新による文明の断絶的発展は、懐かしさの射程に影響するか?

9.このことから、「生まれる以前」の事物に懐かしさを寄せる理由を解明できるか?

10.このことから、「未来」の事物に懐かしさを感じさせるコードを導き出せるか?

懐かしさについての仮説

前提

「懐かしさ」そのものへは立ち入らない。(クオリア問題)

除外

遠い記憶による「懐かしさ」は検証不要

論点

1.懐かしさは学習されるか

2.懐かしさは共有されるか

3.懐かしさは文化的か

4.文化の段階的発展は懐かしさに関連するか

論点の検証

たとえば祖父が「懐かしいな」という感想とともに教えてくれた事物は「懐かしい事物」として記憶される。

夕暮れの懐かしさは、センチメンタルな記憶の浸潤によって「懐かしさ」に同化しやすい。

懐かしさと、憧憬、郷愁、懐古、崇高さ、喪失感、は重なり合っている。

懐かしさは人間の行為に対する事物にのみ発生する。つまり懐かしさとは文化的事物に対する感情である。

※「夕焼け」単体に懐かしさを感じるのは「崇高さ」に対する代替反応と考えられる。

坂本龍一さんによれば「バッハより前の音楽になると、なぜそのコードが感動を生んでいたのかが理解できなくなる」といっていた。(『EV.Cafe 超進化論』)

文化は段階的に発展する。人間の身体は、文化の発展に対応していく。発展の経緯は身体に刻み込まれている。過去の文化については、現在までの文化の発展過程をさかのぼることで、そのルートマップ上の位置を類推することが可能である。この、文化的な距離感が「懐かしさ」のカテゴリーに分類される。実際には経験していないはずの文化を懐かしいと感じるのは、そのためである。

ドラマよりCMのほうが懐かしさが大きい。

懐かしさには共同体や、時代が共有するコードがある。

エポックメイキングな技術革新により、ある文化の発展に断絶が生じた時、「懐かしさ」も断絶する。

文化の発展段階を跡付けるのは経験であり、未来を想定することは難しい。懐かしさは常に「過去」的であり、「未来」には向かない。

以上雑記として。

 

ところで

どんな内容だったのか気になりますね。

www.cscd.osaka-u.ac.jp

 また、とても興味深い論文です(pdf 94ページ)

とくに、懐かしさを「デジャビュ」と結びつける着眼点は必須だったと反省しています。

懐かしさ像を決定する要素の研究