望月の蠱惑

enchantMOONに魅了されたので、先人の功績を辿って、自分も月へ到達したい。

ROCKの定義 佐藤優樹さんから与太郎へ

はじめに

 デストロイヤーさんが亡くなり、内田裕也さんが亡くなりました。

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 しかし、cha cha SING が宝塚で使用されることになったり、佐藤優樹さん(を含むモーニング娘。'19の皆様)のインタビューがザテレビジョンに掲載されたりもしました。

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 そんな中でRockについて考えて、つんく♂さんがモーニング娘。で表現しようとしていたRockと、その体現者であろうとし続ける佐藤さんのRockのことを思っていると、爆笑問題の太田さんと立川談志さんとの違いや、談志さんが追い求めていた「与太郎」のことなどが、少し見えてくる気がしました。

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 佐藤さんを与太郎から考えるのではなく、与太郎を佐藤さんから考えるとき、談志さんにとっての「落語」がつんく♂さんにとっての「モーニング娘。」であったことが納得でき、それを成立させていたのが「破壊」という行為だったのだなと。今回はそんなブログになります。

ザテレビジョンのインタビューより

 

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 以下が今回のブログが書ける! と思った部分

佐藤優樹「私もインパクトを残せる子が入ってきてくれたらいいな。分かりやすくいうなら、つんく♂さんを手放せるくらいの子に来て欲しい。つんく♂さんのライナーノーツがないので私の勝手な考えなんですけど『自由な国だから』っていう歌で“束縛”っていう歌詞を使っているんですよ。でも、私の中で女の人が束縛って言っているイメージがない。男の人が『彼女に束縛されてるんだけど』って言うイメージはあるんですけど、女が束縛っておかしいなって」

石田「確かに。珍しいかも」

佐藤「そう! 珍しいっていうか、ほぼないってなったときに歌詞を読み直すと“過去には戻れないし、未来には飛べない”といったようなワードもあるんです。これを見たとき、もう僕のことは忘れて次にいきなさいって言っているように感じちゃったんですよね。つんく♂さんがそうやって私たちに言っているんじゃないかなって。だから、つんく♂さんイズムとは違うんですけど、それに勝るような子が入ってきて欲しい。グループ全体にプラスのインスピレーションが入ってくるし、オーディションをやるならグループを大きくして結果を出したい! 皆さんがくれる愛を無駄にはしたくない、この愛をどうにかしたいんです」


横山玲奈「私はモーニング娘。愛で言ったら佐藤さんもあると思う。性格上、ふしぎちゃんだから表にはバンと出してないかもしれないけど、曲とかもすごい聴き込むし、ワンフレーズを楽屋で延々と流したりしている。カラオケの音源を聴きまくったりとかも。やるからにはちゃんとしたいみたいな、まっすぐな気持ちが佐藤さんはすごいので、愛は強いんじゃないかなって」

小田「確かに。つんく♂さんが作る楽曲に対しての愛が強いですよね」

佐藤「つんく♂さんが作ってくれた曲を、どうにかして良くしようと思う気持ちは強い。つんくさん♂が出してくれた光を、私がプリズムになって、どう発光できるかをいつも考えてる。失敗すると、つんく♂さんが伝えいたことがパァーになるんです。でも最近のつんくさん♂の曲を聴いていると、僕だけじゃなくていろんな光をためしなさいって言っているように感じるんですよね。さっきの『自由な国だから』に通じるんですけど」

  プリズムは、花束と同じく、佐藤さんがよく用いる喩えの一つです。これは、佐藤さんが「グループ」というものが相乗効果であるということを強く意識していることの現われだと思います。佐藤さん一人で、いかにつんく♂さんの意思を反映させようとしても、グループ内では悪目立ちしかねません。予定調和的ではないが調和した破壊活動による完成? そんな奇妙なことが頭に浮かびます。

Berryz工房

 つんく♂さんは、Loveマシーンの時などが有名ですが、かっこいい振り付けを、ものすごく奇妙にしたり、音を面白い感じにアレンジしたりすることで知られています。

 私はモーニング娘。さんの、そういうトータルバランスを欠いた楽曲表現が大好きなのですが、それは整ったものを破壊する行為による完成、といえるのかなと思います。

 Rockといえば、破壊。固定観念の打破。常識を笑い飛ばす。しゃちほこばった空気を一層する。そんな音楽ではないのかと、そんな風に感じています。
 こういう「真剣にフザケる姿勢」の完成系が、Berryz工房ではなかったかと、そんな風に思うのです。つんく♂さんの「イズム」を、アイドルという枠をぶち壊すギリギリのラインで成立させえた彼女たちは、やはり凄いのだと思います。

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与太郎

 ところで、Berryz工房に「与太郎」は不要でした。というか、全員が全員で「与太郎」になれた、稀有なグループでした。

 元々、つんく♂さん自らがプロデュースを続けていれば、個人に過度な負担を強いる必要はなかったのだと思います。メンバー構成に段階で、効果的な落差を仕込んでおけば、機能させることができたのです。

 つんく♂さんが作ったものを、「アイドル」というプリズムを通して光らせるため、歌詞や曲に「ハズし」の要素を組み込んでおき、振りつけや演出において、カリカチュア的に表すことで、独特のROCK感、「ハロプロ感」が生まれていたのだと思います。

 つんく♂さんが単なる楽曲提供者の位置づけとなって、ライナーノートさえないという現状で、佐藤さんは自らの感性に従って、「与太郎」としての立場を体現しようとしているのだと思います。

不協和音

 もともと、つんく♂さんは、佐藤さんをそのためにメンバーにしたのだと思います。

 予定調和を成立させないジョーカーであり、いびつなピースであり、不協和音を構成する者として。(初めてのサマーキャンプのDVDで、佐藤さんが作った朝食を食べた飯窪さんが、「ケンカしてる! 不協和音!」と感想を言われたときの、佐藤さんの悲鳴のような笑い声を思い出しています)

枠組み

 先日のヤングタウンで、佐藤さんが「10分で書いたブログを、マネージャーさんに直されて、修正に二時間とかかる。この時間はなんなんだ」という話をしていました。細かな修正を指示されたり、部分的な削除要請をされたりするので、それを削るなら全部消してくれ。もう好きに書いてくれ、というようなやりとりがあるというのです。

 それを聞いたさんまさんは、「お前はモーニング娘。の枠にはおさまらないのかもしれないな」という感想を言っていました。(例によってうろ覚えです)

 「枠におさまらない」というのは、そのとおりで、枠におさまらないからこそ、つんく♂さんは、佐藤さんを合格させたのだと思うのです。将来、自分がモーニング娘。に関われなくなることを見越していたのかもしれません。9期では、鞘師さんという未完の大器が入ることで、Rock性(なんて言葉を突然用いますが、ようは予定調和を破壊する与太郎的存在)が確保できましたし、生田さんも、そういうところがあった気がします。(でも実は常識人で、最近の落ち着いた生田さんのことも書きたいなと思ってもいます)

PPとして

 「佐藤は22歳やな」とつんく♂さんは言っていました。

 クールハロー路線が継続し、将来、つんく♂さんがいかなる影響力を与えることもできなくなってしまうような事態になってしまったとき、佐藤さんは破壊者としてのみではなく、破壊による創造神として「グループ」のPP(プレイングプロデューサー)の役割を果たすことを期待されているのではないでしょうか。

佐藤さんから与太郎を考える

 ところで「破壊者」とは何でしょうか?

 落語における「与太郎」はぼんやりとした間抜けとして表されています。それに異を唱えたのが談志さんでした。

 与太郎の、ぼんやりとした言動が、世間の常識や慣習の嘘や無駄を端的に露呈させてしまい、その現実をつきつけられて人々が喜劇的にあたふたしてしまう。社会生活があっというまに落語になってしまう。与太郎とはそんな存在者だと私は認識しています。

 ただぼんやりじゃない。ただの馬鹿じゃない。じゃ、すべて計算だと…?

  否。断じて否です。

 計算ずくで馬鹿のふりして世間の常識をせせら笑う態度は、「イロニー」に過ぎません。そこに起こる笑いは「冷笑」であり、とうてい落語にはなりません。

 与太郎は、心の底から「ヘンだな」「不思議だな」「窮屈だな」と感じており、その自分が感じたことを素直に表に出しているだけなのです。普通の人々が疑問を感じない点に、いちいち引っかかるのが与太郎であり、その自分の身体感覚だけを信じて世界を語ろうとするのが与太郎なのです。

 重要なのは「感性」です。なぜならば「感性=知性」だからで「知識」なんか、たいした問題ではないのです。必要ならば調べるなり人に聞くなりすれば済みます。

 佐藤さんには、生来その感性が備わっていたのだと思いますし、その部分をスポイルされることなく育ってきたのだと思います。

 世間を「落語」に変換するのが与太郎で、モーニング娘。を「つんく♂Rock」に変換するのが佐藤さんだったのではないかと思いました。

 世界を「落語」にしようとしたのが談志さんで、「漫才」にしようとしたのが太田さんです。太田さんにとっての悲劇は、漫才には「古典」がなかったという点だったのかなと思います。世界を落語にしようとすることは、落語を世界にしようという試みでもあります。そのとき落語には、型としての「古典」がありました。しかし、漫才は、抵抗体となるべき「古典」を持たなかった。それが、具体的にどのような影響を及ぼしたのかは、また考えてみたいなと思います。

世界の強度

 佐藤さんは、ある意味でグループの息の根を止めかねないほど強い力を持っています。他のメンバーが、彼女を恐れて、煙たがって、面倒くさがって、避けたりすることになりはしないかと危惧してしまいます。(予てよりちょっと、そういうところは見られたりするように感じます。)

 また、六期以上の先輩方は「壊れてしまう」ような枠組みではないので安心してぶつかっていけた。でも、工藤さんには同じようにしてはいけないと分かったし、9期も後輩も、全力でいったら相手を壊してしまうかもしれない。

 ですが、佐藤さんは自分の居場所が「グループ」であり、「グループ内ですべきこと」が何かを理解しているので、彼女がグループを壊すことはないと思います。

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 ですが、もどかしさは感じるかもしれません。

 モーニング娘。'19 は、彼女にとって小さすぎる、もろすぎる枠になってはいないでしょうか。それはつまりつんく♂さんにとって、という意味でもあります。今度のオーディションで、つんく♂さんを離せるくらいの新人を求めているのは、彼女のそんな思いがあるのかもしれないなと思いました。

 作るのも壊すのも彼女たちです。会社の意向などもあるのでしょうけども、そのあたりは一ファンのうかがい知るところではありませんが、インタビューにあったように、佐藤さんには、つんく♂さんが離れてもなお、どんな楽曲であろうとも、つんく♂さん自身をも超える、「つんく♂イズム」にしてしまう与太郎であり続けてほしいと、願います。

さいごに

 佐藤さんが作曲した楽曲を、世に出してもらいたいです。グループの枠を離れて、グループの破壊者としての立場を離れた佐藤さんが生み出す音楽も、聴いてみたいなと思います。

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