望月の蠱惑

enchantMOONに魅了されたので、先人の功績を辿って、自分も月へ到達したい。

俳句と動詞 ―子規句集にみる無動詞俳句

はじめに

 俳句は写生。それが俳句をつまらなくした、イコール、正岡子規さんが俳句をつまらなくした、という風潮があると読みましたが、それは別にどうでもよくて…

 俳句は写生。理想としては眼前の「モノ」を示すだけで、成立させたいという思いがあり。

 となれば、十七音から廃したいものは「感情」の文字と「動詞」の文字ということで。

 今回は、『子規句集』(高浜虚子選)岩波文庫 内の「寒山楽木 四 明治二十八年」の680句の中から、「無動詞」の句を、なんとなく拾ってみた。

動詞といっても

 一口に「動詞」といっても自動詞とか他動詞とかの別。形容動詞もあるし、動詞の形容詞的用法や、名詞的用法もある。俳句では、記載上、動詞を省略してしまうこともある。また、「季語」にも「動詞の季語」があるため、品詞としての「動詞」を全部廃すればよいというものでもなくて。 ※「季語」が動詞のものは、採った。

描写とは

 「モノ」を描写するとは、けっきょく「モノ=名詞」を被修飾語となして、いかに修飾するか、に掛かっている。「モノ」そのものが有名であれば修飾の必要もない場合もあるけれど。比喩にしても、名詞の修飾に関わるものだ。

道ばたの木槿にたまるほこりかな (は動詞を用いている。)

木槿垣草鞋ばかりの小店哉 (は無動詞。草履ばかりの(ある)小店哉の「ある」の問題(後述)は発生するかも)

 

ある・なき について

 be動詞的なものに「ある」や「いる」その反対として「なし」「をらず」という動詞がある。これについては、それが単に「モノ」の状態を表すための形容詞的な使い方なら採り、「ある」や「ない」という状態に重点のあるものは採らないことにした。

茶屋ありや山辺の水の心太 (は採る。)

人もなし木陰の椅子の散松葉 (は採らない。)

 

以下は、文法的にも、数字的にも、厳密な検証ではないことを、あらかじめお断りしておく。

 

調査データ

概要

全680句中、無動詞句は175句。 四分の一強 の割合である。

新春 

16句中6句 37%

空近くあまりまばゆき初日哉

大家や出口/\の松かざり

107句中35句 32%

春の夜や奈良の町屋の懸行灯

荒寺や簀の子の下の春の草

 夏 

176句中44句 25%

うれしさに涼しさに須磨の恋しさに

薫風や裸の上に松の影

▼夏川や随人さきへ牛車
 ※ さきへ(行く)の省略があるため採らない。「さきの」なら採る?

物凄き平家の墓や木下闇

若竹や豆腐一丁米二合

  秋

272句中62句 22%

めづらしや海に帆の無い秋の暮れ

賤が檐端干魚燈籠蕃椒 (四名詞羅列。)

白露や芋の畑の天の川 (「の」は多用されることになる。)

 冬

109句中28句 25%

文机の向きや火桶の置き処

気車道の一段高き冬田かな

古寺や大日如来水仙花 (三段切れ。)

 補足

明治28年を採り上げた理由

明治27年に「写生」論を得ており、明治28年5月に喀血し、俳号を「子規」としたことから、「松山市立子規記念館HP内の正岡子規の俳句検索」での年代別検索によれば28年の作句数は26年、29年に次いで三番目だが、虚子さんは、『明治28年に子規が純粋の俳句生活に入った』と見ており、(『子規句集 解説 坪内稔典さん より)、この句集に虚子さんが採った句数、のもっとも多かったのが28年だったことによる。(後述付録参照)

sikihaku.lesp.co.jp

高浜虚子選の問題

前述の解説にも書かれているが、虚子さんの俳句の好みは、「客観写生」「花鳥諷詠」などの理論によって、より研ぎ澄まされた、というか、偏狭になったと思う。中興の祖であり、同時に近代俳句の父でもあった正岡子規さんの懐の広さを、よくも悪くも、狭めた。この句集には

鶏頭の十四五本もありぬべし

は採られていない。

 かといって、前述の「俳句検索」により、明治28年の3,246句を調査するというのも、骨が折れる。子規さん本人による『寒山落木 (四)』で、2,836句というが、それもなかなか難しい。

 ちなみに、この『寒山落木』を国立国会図書館デジタルコレクションで調べると、肉筆原稿が見られて素敵だ。

dl.ndl.go.jpともあれ、高浜虚子さんの句集にあたって、動詞をどのように扱っているのかを調べてみるのは、おもしろいと思うので、いつか。

おわりに

実作の伴わない俳句遊び。これがまた面白い。面白ければいい。俳句はおもしろい。

付録 

年号(明治)/正岡子規の俳句検索/正岡子規による選句数/高浜虚子選句数

(各選句数は、『子規句集「解説」』より)

18/    0/    2/  0

19/    8/    1/  0

20/   55/   23/  1

21/  284/   31/  2

22/  185/   32/  2

23/  365/   53/  2

23-24/ 1/    ー/  ー

23-25/28/    ー/  ー

24/  649/  231/  8

25/3,102/1,665/118 ―ここまで『寒山落木(一)』

26/4,973/2,998/485 ―『寒山落木(二)』

27/2,759/1,965/274 ―『寒山落木(三)』

28/3,264/2,836/680 ―『寒山落木(四)』

29/3,446/2,994/268 ―『寒山落木(五)』

30/1,667/1,466/113

31/1,565/1,409/113

32/1,019/  903/ 59 ―ここまで『俳句稿(一)』

33/  773/  641/ 58

34/  538/  506/ 32

35/  449/  401/ 87 ―ここまで『俳句稿(二)』

不明/   14/    ー/  ー

以上