措置入院
措置入院とは、患者本人に対して行政が命令して入院させるものです。これは精神疾患のために「自傷他害の恐 れ」、つまり自分自身を傷つけたり、他人を傷つけたり、何らかの迷惑・犯罪行為をする可能性が高い場合に、行政が患者に命令して、行政措置として入院を強 制するものです。病院と入院契約を交わすのは、患者本人でも家族でもなく、行政です。しかもこれは強制的な命令であって、患者本人の意志も、家族の意志 も、関係ありません。
このような極めて強制力の強い入院であるために、その条件はかなり厳しく、実際上は何らかの犯罪行為、違法行為を犯して警察ざたになった場合が多くなります。
行政が患者を病院に連れてくるという行動に出る前に、「通報」が必要なのですが、それは以下の3つの場合があります:
●一般市民による通報(23条)
●警察官による通報(24条)
●検察による通報(25条)
いずれの場合でも、関わった人が「どうも精神疾患がありそうだし、危ない、このままだと自傷行為や他害行為をしそうだ!」と判断したときに、通報するということになります。
要約すると、措置入院は以下の条件があるときに成立します:
●精神疾患があって、そのために自傷行為や他害行為をしてしまったか、あるいは今後する危険がかなり高い。
●保護した警察官、検察、一般市民などからの通報があって行政が動き患者を病院に連れてくるに至る。
●精神保健指定医2名が診察し、2人そろって「精神疾患があり、そのために自傷他害の危険性が高い」と診断される。
●その診察結果を受けて都道府県知事あるいは政令指定都市市長が行政措置として入院を命令する。措置入院は、上記のような非常に厳しい条件で、自己や他人に危険性のある場合に保護・収容する目的でなされるものでもあるために、それ以外の入院と は違い、基本的に入院中の外出や外泊は大きく制限されます。つまり、相当な医療的保護監視のもとではないと、病院外に出ることさえできないのです。また医 療保護入院と同様に、場合によっては隔離・拘束などの行動制限を使用することもありますが、これも医療保護入院の場合と同様な一定のルールのもとで実施す ることになります。
措置入院の成立
- 条文上は入院させる「ことができない」であるが、覊束裁量と 解されている。措置入院は国等の設置した精神科病院又は指定病院(19条の8)において行う。前者は全病床数から、後者は指定病数から、それぞれ既存の措 置入院者・緊急措置入院者数を除いた限りで、措置入院者を優先して入院させなければならない(措置入院優先主義、29条4項)。
- ひとたび措置入院が成立すると、入院措置の解除があるまで退院できない。解除は入院を継続しなくても自傷他害のおそれがないと認められる必要があ り、都道府県知事が指定する指定医をしてこれを判断させる場合(29条の4)、病院管理者が指定医に判断させる場合(29条の5)、定期病状報告(38条 の3)又は退院請求(38条の5)について精神医療審査会の意見を受けた場合、職権による場合(38条の7)があるが、いずれにしろ解除も入院と同様、都 道府県知事(職権の場合は厚生労働大臣も)の権限と責任において行われる。解除があるまでは、無断退去者の通知規定(39条)が適用されるが、例外的に病 院外に出られる制度として仮退院(40条)がある。
措置入院者の救済
- 措置入院の継続または処遇への不服申立は法38条の4の退院請求または処遇改善請求により行う。
- 措置入院中の医療過誤、あるいは入院中に他患を暴行した場合等について、病院や主治医その他病院職員等の個人が損害賠償責任を負うことはない。措置入院中の医療行為等は国家賠償法1条1項の「公権力の行使」、治療に当たる医師等は「公務員」に該当するとの通説による(国家賠償法の対象であるときは、民法上の不法行為に基づく損害賠償請求はできない)。このように判断した裁判例も存在する[1]。この判例は、入院診療計画書等の存在によっても措置入院関係と別に診療契約が成立したということはできないと判示している。
公費医療原則(30条)
- 措置入院の費用は、医療法上の療養担当規則、いわゆる診療報酬制度によって定まり(29条の6)、原則は都道府県が4分の1、国が4分の3を支払う(30条)が、高額所得者など、一部本人負担のこともある(31条。例えば、東京都の「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行細則」2条)。
■大麻精神病
大麻精神病とは大麻摂取によって起こる精神障害の総称ともいえる。この状態に陥ると、さまざまな症状が現れてくる。その症状は、精神活動の低下による抑制 症状、精神運動興奮、幻覚妄想などの体験、気分や情動の異常、意識の変容など。それらがどういった症状を示すのか、詳しく説明してゆこう。
1 精神活動の抑制が引き起こす症状-無動機症候群、知的水準の低下
無動機症候群とは、大麻による抑うつ状態を表す。たとえば、ものごとへの興味や関心が極端にせばまり、自発的な活動や思考がほとんどできなくなってしま う。また注意力や集中力も落ち、ひとつのものごとを持続しておこなうことができなくなる場合もある。なにごとにも無気力で疲労を感じやすく、むっつりした 様子やムラ気が目立つようになる。生産活動(仕事など)への興味も損なわれ、将来への展望もなく、退廃的で浮き草のような生活を送ることが多い。
重度の症例では、ほとんど無言、無動となり、終日ぼーっと過ごすなど、意識水準の低下が疑われるような状態になることもある。
大麻摂取を中断すると、通常は1~2週間でふつうの会話や行動がとれるまでに回復する。だが重度になると、活動性が回復するまでに数か月から1年余りを要する場合がほとんどだ。
知的水準の低下は、これらの症状にともなって現れてくる。複雑な会話は理解できず、簡単な計算も間違え、文章もひらがなばかりで幼稚な内容となる。このよ うな状態は精神活動の回復とともによくなってゆくが、最終的に本来の知的水準までもどれるかどうかは不明である。こういった状態を「カンナビス痴呆」とも 言う。
2 精神運動興奮
ちょっとした刺激にも簡単に心を乱され、怒りっぽくなったり、興奮しやすくなったり、気分が変わりやすくなる状態を精神運動興奮という。言動にまとまりがなくなり、粗暴な行為が目立つなどの状態は、1~3か月も持続することがある。
3 気分、情動、衝動の異常
大麻による抑うつ状態-無動機症候群や知的水準の低下については先程説明したが、それらの症状に、気分や情動、衝動の異常がともなう場合もある。この場合には抑うつ状態とは逆に、理由のない自殺企画や、衝動的に他人に乱暴をはたらくなど粗暴な行動が現れる。
こういった症状は、思考の混乱や情緒がいちじるしく不安定となり、それらの考えや不安に耐えきれなくなって、衝動的な行動を起こす、と考えられている。
4 幻覚妄想
大麻によって引き起こされる幻覚や妄想のほとんどは、本人に被害を与えるような内容のものである。主に幻聴で、何かを命令されたり、本人の行動に逐一干渉 するような場合もある。症例によっては「神様が見える」「誰かが体を触る」など、幻視や幻触の体験も報告されている。
妄想の内容としては、誰かに見張られている、追跡されるなどの迫害妄想が多く、時に罪の意識を感じる罪業妄想、微小妄想、誇大妄想なども認められる。
その他、作為体験(ありもしない体験を事実とする)や、誰かの思考が伝わってくるという妄想、誰かの考えを吹き込まれるといった妄想、逆に自分の考えが誰かに奪われたりこっそり聞かれたりするといった妄想を伴うこともある。
これらの精神病的体験は、具体的で色彩感があり、覚せい剤による精神病の体験とよく似ている。いったんこういった症状が現れるとなかなか回復せず、2年間以上持続した例もある。
5 意識の変容
夢幻状態や錯乱、せん妄などを意識の変容という。大麻精神病の症状のひとつとして、こういった症状が数日~2週間以上、ときどき現れる場合がある。その間の記憶は脱落するか、断片的にしかのこらず、幻覚妄想もともなって、顕著な不安を引き起こす。
6 観念の抽出、思考の錯乱
この症状は、思考がばらけていくような感覚をもたらす。その感覚は以下のように表現されることが多い。「ふっと考えが頭に浮かび、それにどう対応していい か自分でもわからなくなる」「考えがバラけてしまってまとまらず自分でも困る」「質問されると、その言葉の意味が同時にいろいろと浮かんできて、どう答え ていいかわからなくなる」など。 こういった思考の錯乱のほとんどが、1~5までの他の症状にともなって認められるが、場合によっては、この症状だけがま ず現れてくるときもある。
警察官職務執行法
(昭和二十三年七月十二日法律第百三十六号)最終改正:平成一八年六月二三日法律第九四号第三条 警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して次の各号のいずれかに該当することが明らかであり、かつ、応急の救護を要すると信ずるに足り る相当な理由のある者を発見したときは、取りあえず警察署、病院、救護施設等の適当な場所において、これを保護しなければならない。2 前項の措置をとつた場合においては、警察官は、できるだけすみやかに、その者の家族、知人その他の関係者にこれを通知し、その者の引取方について必要な 手配をしなければならない。責任ある家族、知人等が見つからないときは、すみやかにその事件を適当な公衆保健若しくは公共福祉のための機関又はこの種の者 の処置について法令により責任を負う他の公の機関に、その事件を引き継がなければならない。3 第一項の規定による警察の保護は、二十四時間をこえてはならない。但し、引き続き保護することを承認する簡易裁判所(当該保護をした警察官の属する警察署所在地を管轄する簡易裁判所をいう。以下同じ。)の裁判官の許可状のある場合は、この限りでない。4 前項但書の許可状は、警察官の請求に基き、裁判官において已むを得ない事情があると認めた場合に限り、これを発するものとし、その延長に係る期間は、通じて五日をこえてはならない。この許可状には已むを得ないと認められる事情を明記しなければならない。5 警察官は、第一項の規定により警察で保護をした者の氏名、住所、保護の理由、保護及び引渡の時日並びに引渡先を毎週簡易裁判所に通知しなければならない。
しそう‐はん〔シサウ‐〕【思想犯】
反社会的行動
反社会的行動(はんしゃかいてきこうどう、Anti-social behaviour)は、青少年の問題行動の一つとして語られる社会的規範から逸脱した行動[1]。原因として、行為障害(CD)、パーソナリティ障害を挙げることも少なくない。アメリカ精神医学会のDSMでは、継続する反社会的行動を反社会性パーソナリティ障害(Antisocial personality disorder)、世界保健機関のICDではF60.2非社会性パーソナリティ障害(Dissocial personality disorder)としている[2]。行為障害である場合には反社会性パーソナリティ障害は除外される[2]。
発生の背景
成人では、政治、宗教などの信条に基づいて、周囲の社会に対して反社会的な活動を展開するなどのケースもあり、青少年の場合と一律には語れない。青少年の場合、これはその社会の法律や習慣、社会規範に明らかに反し、逸脱しているとされるような行為のことで、犯罪行為、少年非行に類した行為のことをいう。類したもので、非社会的行動、向社会的行動、トゥレット障害などの神経性習癖などがあり、これらと区別して、特に他者に迷惑、危害、不安を及ぼすようなものから、飲酒・喫煙・家出・盛り場徘徊・不純異性交遊・薬物乱用・刺青などまで被害者が明確ではないものまでをいう。多いものは、盗み、暴力、怠学、家出・放浪、虚言など。非社会的・向社会的行動に対して、これは対人・社会的関係を壊すものとして区別される。非社会的行動は、対人・社会的関係を回避し、向社会的行動は、逆にそれを求め執着する傾向が強い。
反社会的行動の出現は、児童期の注意欠陥・多動性障害(ADHD)と重なって出てくる場合、また青年期の第二反抗期に一時的に親や大人たちからの独立心の表れと相まって一時的に出てくる場合などがあるが、深刻なものはそれが生涯にわたり継続していくケースである。そういうケースの背景としては、特に男性の場合ジェンダー問題、親からの虐待、とりわけネグレクト、貧困、社会的に恵まれない成育環境などがあるといわれる。これは、日本でも欧米でも共通で、欧米の場合、さらに社会的なマイノリティの出身であることなども影響するという識者もある。ただし、これには公安関係者のバイアスだとする声もある。
日本では、生産に全く関与せず、社会の負担となるだけのニートや生活保護受給者なども、労働者から感情的に反社会的存在とみなされる場合が有る。そのために、就職活動をしても過去の経歴で門前払いされ、社会復帰が難しくなっている現状が有る。
対応策
認知行動療法
認知行動療法(CBT)は、反社会的行動への対応において、効果性が高く、根拠に基づいた治療法であるとされる[3]。この種の治療法は、個人が社会的状況をどう認識し、どう行動するかを変化させることに焦点を置く。とりわけ特に攻撃的な反社会的行動をする個人は、誤った社会的認識(敵意帰属バイアスなど)をしている傾向があり、これはネガティブな方向への行動結果をまねくものである[4]。またCBTは、青年などにはさらに効果があり、小さな児童には効果が劣ることが判明している[5]。
CBTの一種である社会的問題解決力トレーニング(PSST)は、個人がどのように社会的環境を考え、その結果どう振る舞うかを理解し修正していくことを目的としている[6]。このトレーニングでは、順を追ってセラピー外で起こる問題への潜在的な解決法を評価する技術を学び、さらに物理的暴力を避けてポジティブな問題解決法を作成し、紛争を解決する方法を学ぶ[7]。
ペアレントトレーニング
―人格障害(1)―
人格は性格と知能によってきまる対人関係のあり方であり、そのひととなりといえる。性格や知能は遺伝的体質・気質とその後の環境すなわち育ちによっても違ってくる。特に性格は幼児期の人間関係(コンプレックス)すなわち母親・父親・同胞などとの関係によって形成される。
人格障害は3つのタイプすなわち奇妙で風変わりなタイプ、人を困らせるタイプ、自分が困るタイプなどに分けられる。
奇妙で風変わりなタイプには妄想性、分裂病質、分裂病型人格障害がある。人を困らせるタイプには反社会性、境界性、演技性、自己愛性人格障害がある。自分 が困るタイプには回避性、依存性、強迫性人格障害がある。精神障害のすべてにいえるが一人の個性豊かな人間が上記の典型的な人格障害の1つだけに合致する のではなく、二つ以上の人格障害の特徴を併せ持つのは当然といえる。典型的な一つの人格障害の場合もあるが、二つの人格障害を併せ持っていたり、1つの人 格障害が優位だが他にもいくつかの人格障害の特徴を持っているということが十分ありうる。
基本的には人格は疾患ではなく、障害といえる。従って 人格は治すのではなく、どのように付き合っていくのかという問題である。しかしながら人格障害には神経症や精神病を併発しやすくそれらの症状の軽減をはか ることにより、また人間関係の調整により人格障害を改善していくことは可能である。
―人格障害(2)― 妄想性人格障害
妄想の 定義は周りが訂正出来ない誤った確信・信念である。その人の確信していることを訂正出来るなら妄想といえないので、妄想には説得は逆効果である。このよう な固定した妄想を持つ妄想性障害とは違って、妄想性人格障害は固定した妄想が欠けていて妄想様観念を持っている。幻覚や思考障害を持つ妄想型統合失調症と 違って幻覚や思考障害はない。さらに他人と複雑な込み入った関係になる境界性人格障害、反社会的行動の長い病歴のある反社会性人格障害、引きこもり孤立す る統合失調症質人格障害とは区別される。この型の人格障害は人間に対する不信により特徴づけられ、敵対的攻撃的である。偏屈者、嫉妬深い配偶者、訴訟好き な変人はこの型の人格障害である。人格障害故に治療を求めることは少ないが、家族や雇用者によって連れて来られることがある。
以上のようにこ の型の人格障害は被害的であり、人を信用できず、自分のことを人に言えない。恨みを抱き続け、ささいなことに攻撃的になり、配偶者の不貞を疑いやすい。患 者は自分の感情を外に向け、他人からのものと感じる。つまり自分自身受け入れられない衝動や考えを他人のせいにする。患者自らは合理的客観的であることを 誇るが、暖かみにかけ能力や階級に心酔する。弱者・病人・障害者に軽蔑をしめす。
―人格障害(3)― 統合失調症質人格障害
こ の人格障害は他人には風変わりで孤立しているように見える。当然この人格障害の患者さんたちは社会で仕事を見つけてしていくのは難しいが、仕事があったと しても対人関係の少ない孤独な仕事や夜間の仕事を好む。人格障害すべてに言えるが、容器としての身体に相容れない性格であり、落ち着かなかったり、視線を 合わせられなかったり、場にそぐわない感情を持ち、会話が少なく、ときおり奇妙な言葉使いをする。人が苦手なため生命のないものや抽象的な事に興味をもち やすい。
以上特徴をまとめると親密な人間関係を持ちたいと思わずに孤立する。異性に対する興味も少なく、喜びを感じる活動も少ない。他人の感情 に無関心で感情のよそよそしさ、冷たさ、平板さが見られる。このようにこの人格障害の患者さんは流行に追随することなく非社会的であり、ときに孤独で競争 の少ない仕事はうまくいく。ときに一方通行的な思想的運動、社会改良計画、健康法などに夢中になることがある。自己に没頭し白昼夢に耽っているように見え る一方、現実認識能力があり攻撃的言動は少なく、患者さんにおこってくる困難は空想的全能感やあきらめによって処理される。ときどき独創的、創造的観念を 持ち社会に示すことがある。
妄想性人格障害と違ってこの人格障害は社会からひきこもり、感情が萎縮している。回避性人格障害と違って孤独を好 み、自閉的夢想が多い。治療は人格障害一般と共通した方法に加えて治療者を含む最低限の人間関係を持ち徐々に人間関係を増やしながら他人から攻撃されるの を防ぐ必要がある。
―人格障害(4)― 統合失調症型人格障害
患者さんは著しく風変わりで奇妙である。魔術的思考、独特な信 念、関係念慮、錯覚、現実感喪失は日常生活の一部になっている。統合失調症の患者さんと同様に自分自身の感情には鈍感で他人の感情には敏感である。迷信深 かったり、千里眼的なことを感じる。心は恐怖と空想で満たされ、特別な思考力、洞察力を信じている。話言葉は奇妙で変わっており、対人関係は少なく孤立し ている。親密な関係が急に気楽でなくなったり、親密な関係を持つ力が弱い。社会的適応が難しい。ストレス下では精神病症状を示す。
奇妙な行 動、思考、認識、奇妙な疎通性によって他の人格障害とは区別される。精神症状がないことで統合失調症とも区別される。奇妙な行動もあることから妄想型人格 障害とは区別される。比較的自殺率が高い。統合失調症と同様に抗精神病薬が効く傾向がある。統合失調症質人格障害と同様、被害意識を感じない環境が大事で あり信頼関係構築に努める。
―人格障害(5)― 反社会性人格障害
反社会性人格障害は継続的な反社会的犯罪行動によって特徴づ けられる。青年期・成人期における社会的基準に従う能力の欠如と考えられる。例えば法に従えない、人をだます、衝動的・刹那的である、易努的攻撃的であ る、安全を無視する、無責任である、良心がないなどの特徴がある。障害の発症は15歳以前であり、少年の方が少女より早い。患者は落ち着いて信用できるよ うにみえるが、その見せかけ・正気の仮面のしたには緊張・敵意・焦燥感・怒りが存在する。幼児期の微細な脳損傷を示す脳波異常や神経学的兆候が多い。
反社会的人格障害はしばしば正常に見え、魅力的で愛想がよく見える。しかし生活領域において虚偽・ずる休み・家出・盗み・けんか・物質乱用・不法行為は子 供の頃から始まる。華やかで誘惑的に見えるが、操作的自分本位である。状況から当然不安や抑うつがあってもいいのにない。自分の反社会的行動の説明は出来 ない。自殺の恐れや身体へのとらわれはあるが妄想や思考の異常はない。比較的言語知能は高いようである。詐欺師のように巧みに人を操り、金銭や名誉のため 陰謀や陥れをたくらむ。真実は語らず、仕事はできず、道徳にも従わない。乱雑さ、虐待、飲酒運転は一般的である。それらの行動に反省はなく、良心を欠いて いるように見える。
物質乱用との鑑別は難しくともに小児から始まるなら両方の障害といえる。反社会的人格障害が小児期から始まり、青年後期に反社会的行動の頂点に達する。
治療には自助グループが有用であり、仲間のなかにいると感じれば変わろうと言う気がおこることもある。当然確固とした制限が必要であり、自己破壊的衝動の 処理方法を見つける必要がある。親密になることへの恐怖や正直な出会いから逃げ出したい願望を阻む必要がある。懲罰と制御の区別、隔離・審判と救助・直面 化の区別が目標になる。薬物・物質乱用に注意して不安、怒り、抑うつなどに薬物を使う。
―人格障害(6)― 境界性人格障害
人 格障害のなかでも境界性人格障害は一番関心がもたれ、長く、深く研究されてきている。境界の意味は色々あり、神経症と統合失調症との境界疾患であるとか、 多量服薬、手首の自傷などの問題・衝動行動が自殺までにはならない境界的出来事であるとか、境界例の無意識的病理が自分の周辺・他人との境界での混乱と考 えられていることからくる。
境界性人格障害の患者さんは基本的には不安で定まらない気持ちを持っており、自己・自分が分裂せずに、感情・無意 識などが断裂している。自己・自分がまとまりを維持している故に、心・無意識の不安定な動きは周りの人を混乱させ、巻き込んでしまう。さらに境界的出来事 である故に自分の意識も届かずに自分の不安定な衝動的な心の動きを他人の心の中に感じ取り、自分の心が混乱しているにもかかわらず、他人の態度・心が自分 を不安定にさせていると感じやすい(投影性同一視)。
常に危機的状況にある境界性人格障害の患者さんは通常の不安と違って精神の断裂に近い形で 感情・無意識が断裂している。すなわち今落ち着いていると思えば急に怒り出したり、今泣いていると思ったら急に笑い出したりする。他人に対してもこきおろ したり、尊敬したり急激な態度変化をとる。これらの激しい問題行動、態度はこのような深刻に断裂した心の不安定感から起こる。この不安定感は底なしでまわ りの人による暖かい安心感を与える関わりも受け止められることなく、底なしの不安定感に吸収され際限のない疲労感・無力感を周りの人に感じさせやすい。患 者さんは他人に対する依存と敵意がありそれがころころと急変し、安定した人間関係をもてない。
治療において問題行動・行為化に対するには枠組みやけじめを守らせることから始まる。さらに行動療法的訓練をしたり、入院をして集団精神療法を受けることが適当である。薬物療法も重要である。
―人格障害(7)― 演技性人格障害
患者は興奮しやすく、感情的で、華やかで劇的外向的な傾向が強い。目立ちたがり屋で性的誘惑的挑戦的でもあり、感情的表出・身体的表現が目立ち内容があま りないにもかかわらず印象的な過度な表現を用い芝居がかっており、他人に影響を受けやすく被暗示性が強いという特徴がある。
内面の空虚さを外面 で補い、現実のストレスや現実への直面化に対して解離や抑圧の防衛機制を使う。すなわち現実検討能力が落ち、いやな出来事を忘れてしまったりなかったこと にする。外面を強調したり、大事にする故に外面を無視されたり内面の問題を指摘されたりするとかんしゃく、涙、非難などを引き起こす。性的には不感症や不 能のこともあり、その問題がないかのように魅惑的に振る舞う。対人関係も外面的表面的で、内面の空虚さを補うかのように薬物・アルコール乱用したりする。 治療は患者が気付いていない内面の情緒的葛藤を気付かせることが重要である。薬物は幻覚、抑うつ、身体化などの目立った症状に対しては有効である。
―人格障害(8)― 自己愛人格障害
自己愛・ナルシズムとは自分の興味・関心が自分自身にのみ向かうことである。当然自分が重要人物であるとか自分は素晴らしいと思う。しかし他人にも認められる本当の自信と違って、自己愛は他人とは無関係に生じる感情であり非常に不安定な側面がある。
この人格障害の患者さんの特徴は自分が重要人物であるという誇大的な感情を持ち自分を特別と見なし、他人に特別な待遇を期待する。批判をまともに聞かずに 非難に対して立腹する。しばしば名声や富を望み自分独自のやり方を押し通すので行動規則をよく破り、人をよく怒らせる。自分への関心が強すぎて他者への感 情移入が難しく、非常に利己的といえる。そのため対人関係がうまくいかずに自尊心も傷つきやすく抑うつ的になりやすい。その他限りない成功、権力、才気、 美しさ、愛などの空想に捕らわれたり、自分が特別で独特なため特別地位の高い人にしか理解されないと信じていたり、特権意識を持っていたり、共感が欠如し たり、他人に嫉妬する。
治療は患者さんの自己愛を傷つけないように関わる必要がある。治療は難しいが精神分析も一つの方法である。抑うつ的になりやすいので抗うつ剤がよく使われる。
―人格障害(9)―依存性人格障害
この患者さんは他人の要求を自分の要求より重視し、自分の責任を他人に預け、自信に欠け、長時間の孤独に激しい不安を感じる。世話をされずに放って置かれる恐怖が非常に強い。この人格障害は女性に多い。
この障害の患者さんは自己の決断が他人からの過剰な忠告と元気付け、助言、保証があって始めて可能であり、責任ある立場に付けない。支持を失うのを恐れて反対意見も言えない。同じ課題でも自分自身のためにするのには耐えられないが他人のためには耐えられる。
対人関係は密着し、強固な信念を持った人の信念を取り入れやすい。悲観主義、自信のなさ、受動性、攻撃的感情表現に対する恐怖がある。虐待をしたり、アルコール依存の配偶者に対する密着を失うまいとして耐えたりする。密着感を失えば別の密着関係を必死に求めたりする。
他の人格障害の依存と違って一人の人との長期の関係が特徴的である。他人に対する操作的特徴も少ない。広場恐怖に見られる顕著な不安・恐怖はあまりない。
治療はよく成功し、洞察が有効である。治療者の支持が依存を克服させやすくする。依存している愛着・密着対象との関係を充分考慮することにより、行動療法、自己主張訓練、家族療法、集団療法は成功しやすい。抗うつ剤、抗不安剤などの薬物療法も有効である。
行政執行法
公布;1900(明治33)年6月2日 法律第84号
改正;1911(明治43)年法律52号
廃止 1948(昭和23)年6月14日第1条
① 当該行政官庁は泥酔者、瘋癩者自殺を企つる者其の他救護を要すと認むる者に対し必要なる検束を加へ戎器、兇器其の他危険の虞ある物件の仮領置を為すことを得暴行、闘争其の他公安を害するの虞ある者に対し之を予防する為必要なるとき亦同し
② 前項の検束は翌日の没後に至ることを得す仮領置は30日以内に於て其の期間を定むへし
犯行そのものに関する量刑の事情
1.犯行の動機、計画性
動機が反社会的であったり、私欲を満たすためであったり、情欲に任せたものであったり、
通り魔的だったりすることで、量刑が重くなります。例えば、被害者から以前に何かをされて恨んだ末に犯行に及んだ場合や被害者に挑発されるなど
被害者に落ち度がある場合と、理由もなく犯行に及んだ場合とでは量刑も異なってきます。また、事前に十分な計画や入念な準備をして行った犯行と相手方の行動に触発されて突発的に行った
犯行とは、異なります。
2.犯行の手段、方法、態様
共犯か単独なのか、共犯の場合は、主犯(首謀者や先導者)なのか、ただ、
従属的に従ったまでのことかが問題となります。けん銃や木刀等の凶器を使用した場合と、素手によるものなのか、でも量刑は異なります。
ただ、プロボクサーやこれに類する運動家などは、素手や素足でも凶器と同じような評価をされる場合が
あります。
さらに、犯行を加えた部位が生命の危険の及ぼす身体の重要な部分であったり、
その犯行は周囲の者が止めるのを振り切って多数回にわたり執拗に顔面や腹部を蹴りつけた場合と、
わずか臀部を1回蹴りつけた場合とで、量刑が異なることは当然でしょう。これは、身体に対する犯罪を例に挙げましたが、財産やその他に対する犯罪でも犯行の手段、方法、態様に
それぞれ違いがあり悪質であればあるほど量刑が重くなることが考えられます。
3.結果の大小・程度・数量、被害弁償
これはもちろんのことですが、同じ傷害罪でも、全治2週間と全治6か月とでは異なります。
また、窃盗事件では、盗まれたものが数千万円もする高額な貴金属の場合と、現金1万円では当然異なります。
財産犯では被害を受けた財産の時価総額がどのくらいかなど被害の大きさが、量刑に当たって
重要な判断要件となります。また、犯行によって失われた被害や損害がどの程度回復したかも重要な判断基準となります。
財産的な損害の場合は、被害回復や被害弁償が重視され、その物か、その物の価格に応ずる現金、
さらにそれ以上のものを弁償した場合と、全く弁償せず被害の回復もない場合は、当然異なります。また、人命に関する犯罪で被害そのものの回復はできない場合でも、慰謝料等を金銭で支払い、
特に多額の金銭を支払った場合は、被害又は損害の一部又は全部を回復させたと同視される場合もあります。被害弁償がされた場合は、被告人に有利になります。
仮に被害者が示談金を受け取らずに被害弁償がなされないとしても、弁償に向けた努力、
例えば法テラスや弁護士会に「しょく罪寄付」をした場合は一般的に、一定の評価を受けます。なお、しょく罪寄附とは、脱税、贈収賄、覚せい剤取締法違反など「被害者のいない刑事事件」や、
「被害者に対する示談ができない刑事事件」などの場合に、被疑者・被告人が事件への反省の
気持ちを表すために、公的な団体等に対して行う寄附のことです。
犯行以外に関する量刑の事情
1.被告人の性格や職業
被告人の性格からみて取れる反社会性や常習性、犯罪傾向の進み具合、粗暴性などは、
量刑事情に影響を及ぼします。被告人の年齢や経済状態、定職に就いているかどうかなども量刑に影響します。
たとえば年齢が若ければ、更生の見込みがあるという点で有利に作用することもあります。
2.前科・前歴
同種の前科・前歴があれば、再犯のおそれありということで、情状が悪くなります。
前科に関しては、刑の言い渡しが失効した後も量刑事情としては考慮されることとなっています。
ただ、交通事故の前科が窃盗事件の量刑に影響を及ぼすことはほとんどないといってよいでしょう
(ただし、執行猶予期間中の犯行は別です)。しかし、同種前科が多数あり、特に窃盗事件で窃盗の前科が10年以内に3回以上窃盗や窃盗未遂の
処せられていれば、懲役3年以上の「常習累犯窃盗」に処せられます。これは、常習的に傷害事件を犯した場合に懲役1年以上の「常習傷害」に問われることと同じ理由に
よるものです。常習について、法令にない場合でも、何度も同じような形態で犯罪を行っていた場合は、裁判の都度、
刑が加重される場合がほとんどです。なお、前歴は、通常逮捕歴や補導歴等を示すもので、警察でそのデーターを管理していますが、
確定判決(罰金も含む)を経た前科(検察庁が管理)とは重みが違っています。それは、証拠に基づき判決を経た前科と、警察が検挙したが判決まで行かなかった事件の重みの違いと
言えます。したがって、まず、同種前科の方が重視され、次に同種の前歴が考慮されるということになります。
3.余罪
余罪に関しては、条件付きで量刑事情として考慮できるとされます。
実質上、余罪を処罰する趣旨の場合は量刑の資料とすることはできず、単に被告人の性格、
経歴および犯罪の動機、目的、方法などの情状を推知する場合には量刑の資料とすることができます。質上、余罪を処罰する趣旨としては考慮してはいけないが、単に被告人の性格、経歴および犯罪の動機、
目的、方法などの情状を推知するための資料としては考慮してよいということです。余罪を処罰するための量刑の資料としてならない理由は、余罪はいまだ厳格な裁判手続を経ておらず、
裁判に耐えうるだけの十分な証拠の裏付けがない場合もあるからです。
4.反省と自白
被告人が反省をしているにもかかわらず、誤解を受けて反省していないと疑われないように、
弁護人としては十分に注意する必要があります。反省して自白していることが有利に働くことは間違いありません。
否認や黙秘をすること自体は、検察官に対する対立当事者として正当な防御活動です。
しかし、証拠上、明白な事実に対して、悪あがきに見られるような
不合理な否認・不合理な黙秘を続けた場合には、否認をしたことや黙秘をしたこと自体ではなく、
その公判廷での態度からみて取れる反省のなさや再犯のおそれを量刑上不利に考慮されることはあります。弁護士と相談してどのような供述態度を示すべきか総合的な判断をするべきでしょう。
5.社会の処罰感情、社会的制裁、社会的影響
社会の処罰感情が一般的に、量刑事情に影響することは否定できません。
ちなみに、特定の犯罪に対する社会の処罰感情はときどきの社会背景によって変化します。
新聞やテレビで報道される事件周辺の人々や一般社会の人々の声や意見などを反映した社会の反応や
影響も判断材料となる場合があります。また、逮捕や勾留によって会社を首になったり、有名人などが報道によって社会から無視や抹殺されたり
報復を受けたりすることなどで、社会的制裁を受けた場合は、被告人にとって有利な事情になる場合が
あります。社会的影響とは、凶悪犯罪などによって社会が感じる不安やこれに対する対策コストなどです。
刑法上の責任能力
刑法における責任能力とは、刑法上の責任を負う能力のことであり、事物の是非・善悪を弁別し、かつそれに従って行動する能力のことである。責任能力のない者に対してはその行為を非難することができず(非難することに意味がなく)、刑罰を科す意味に欠けるとされている。
責任無能力と限定責任能力
責任能力が存在しない状態を責任無能力(状態)と呼び、責任能力が著しく減退している場合を限定責任能力(状態)と呼ぶ。責任無能力としては心神喪失や14歳未満の者が、限定責任能力としては心神耗弱(こうじゃく)が挙げられる。刑法は39条第1項において心神喪失者の不処罰を、41条において14歳未満の者の不処罰を、39条2項において心神耗弱者の刑の減軽を定めている。
心神喪失と心神耗弱
心神喪失とは、精神の障害等の事由により事の是非善悪を弁識する能力(事理弁識能力)又はそれに従って行動する能力(行動制御能力)が失われた状 態をいう。心神喪失状態においては、刑法上その責任を追及することができないために、刑事裁判で心神喪失が認定されると無罪の判決が下ることになる。もっ とも、心神喪失と認定されるのは極めて稀であり、裁判で心神喪失とされた者の数は平成16年度以前10年間の平均で2.1名である。同期間における全事件 裁判確定人員の平均が99万6456.4人なので、約50万分の1の割合となる(平成17年版 犯罪白書 第2編/第6章/第6節/1)。
無罪判決が出た場合は、検察官が地方裁判所に審判の申し立てをし、処遇(入院、通院、治療不要)を決める鑑定が行われるとともに、社会復帰調整官による生活環境の調査が行われる。(医療観察制度のしおりより)
入院決定の場合は6ヶ月ごとに入院継続確認決定が必要とされ、通院決定、あるいは退院許可決定を受けた場合は原則として3年間、指定通院医療機関による治療を受ける。
心神耗弱
心神耗弱とは、精神の障害等の事由により事の是非善悪を弁識する能力(事理弁識能力)又はそれに従って行動する能力(行動制御能力)が著しく減退 している状態をいう。心神耗弱状態においては、刑法上の責任が軽減されるために、刑事裁判で心神耗弱が認定されると刑が減軽されることになる(必要的減 軽)。心神耗弱とされるの者の数は心神喪失よりも多く、裁判で心神耗弱とされた者の数は10年間の平均で80.4名である(犯罪白書同上)。
心神喪失および心神耗弱の例と問題
心神喪失および心神耗弱の例としては、精神障害や知的障害・発達障害などの病的疾患、覚せい剤の 使用によるもの、飲酒による酩酊などが挙げられる。ここにいう心神喪失・心神耗弱は、医学上および心理学上の判断を元に、最終的には「そのものを罰するだ けの責任を認め得るか」という裁判官による規範的評価によって判断される。特に覚せい剤の使用に伴う犯罪などに関してはこの点が問題となることが多いが、判例ではアルコールの大量摂取や薬物(麻薬、覚せい剤など)などで故意に心神喪失・心神耗弱に陥った場合、刑法第39条第1項・第2項は適用されないとしている[4]。
また、殺人等の重犯罪を行った者については近年の世論の変化(厳罰化を強く望む声(特に被害者やその遺族側)という説もある)により心神耗弱として認定されることは少なからずあっても[5]、心神喪失として認定されることは極めて稀である。特に複数の殺人や強盗殺人などの複数の重い罪を犯した者については通常の犯罪者同様に極刑もしくは無期懲役が言い渡される判例が多く、被告人の弁護側が心神喪失の認定を求めても、認定者とするか否かの判断を避けたり(精神面や発達面の障害などを十分考慮や重視をせず)責任能力を完全に[6]認めた上で判決を行う傾向にある。また、「受け入れ先がない」「遺族が厳罰を望んでいる」として姉を殺した発達障害(アスペルガー症候群)の男性に対し求刑を上回る懲役刑を言い渡した例もある[7]。
心神喪失と認められると、不起訴になるか、起訴されても無罪となる、ということに関しては、社会的に抵抗感を抱く向きもある。2001年6月8日に大阪教育大学教育学部附属池田小学校で起こった事件(「附属池田小事件」)の犯人が、精神分裂病[8]などの精神疾患を理由として10回以上に渡って不起訴(一部を除く)となった経歴の持ち主であったことも報道された。この事件をきっかけに、心神喪失と認められた者に対する処遇への、司法の関与が必要との考え方が注目され、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」が制定され、保護観察所に配置された社会復帰調整官(精神保健福祉士)を中心に、医療観察を行う枠組みがつくられた。
心神喪失や心神耗弱の認定
被告人の精神状態が刑法39条にいう心神喪失又は心神耗弱に該当するかどうかは法律判断であって専ら裁判所にゆだねられるべき問題であることはもと より、その前提となる生物学的、心理学的要素についても、上記法律判断との関係で究極的には裁判所の評価にゆだねられるべき問題であり、専門家の提出した 鑑定書に裁判所は拘束されない(最決昭和58年9月13日)。しかしながら、生物学的要素である精神障害の有無及び程度並びにこれが心理学的要素に与えた 影響の有無及び程度については、その診断が臨床精神医学の本分であることにかんがみれば、専門家たる精神科医の意見が鑑定等として証拠となっている場合には、鑑定人の公正さや能力に疑いが生じたり、鑑定の前提条件に問題があったりするなど、これを採用し得ない合理的な事情が認められるのでない限り、その意見を十分に尊重して認定すべきものである(最判平成20年4月25日)。
被告人が犯行当時統合失調症にり患していたからといって、そのことだけで直ちに被告人が心神喪失の状態にあったとされるものではなく、その責任能力の有無・程度は、被告人の犯行当時の病状、犯行前の生活状態、犯行の動機・態様等を総合して判定すべきである(最決昭和59年7月3日)。