望月の蠱惑

enchantMOONに魅了されたので、先人の功績を辿って、自分も月へ到達したい。

『フェアトレードビジネスモデルの新たな展開 SDGs時代に向けて』を読んで

はじめに

 前回のブログに記した「私的問題項目」を留意しつつ、一読しました。フェアトレードエシカルトレードとを関連付けた論考はとてもわかりやすく、たどってきた道筋と今後の展望についても明確に記されていました。

SDGs

 その中に、国連が掲げる2016年から2030年までのアジェンダ:「国連持続可能な開発目標」(SDGs)というのがあって、この取り組みとフェアトレードとの類似性というか、親和性があると書かれていました。

1.貧困をなくそう 2.飢餓をゼロに 3.すべての人に健康と福祉を 4.質の高い教育をみんなに 5.ジェンダー平等を実現しよう 6.安全な水とトイレを世界中に 7.エネルギーをみんなに、そしてクリーンに 8.働きがいも経済成長も 9.産業と技術革新の基盤をつくろう 10.人や国の不平等をなくそう 11.住み続けられるまちづくりを 12.つくる責任つかう責任 13.気候変動に具体的な対策を 14.海の豊かさを守ろう 15.緑の豊かさも守ろう 16.平和と公正をすべての人に 17.パートナーシプで目標を達成しよう(国連広報センター)

これら17項目を取り組み課題(ゴール)とし、169の個別課題(ターゲット)が策定したそうです。

8.持続的経済成長

 フェアトレードによって、開発途上国の労働者の賃金が上昇する。先進国は開発途上国に投資を行う。GNIあがる。みんなうれしい。経済成長万歳。ということになります。

 けれども、化石燃料だとか、原子力だとか。鉱物資源だとか、森林資源だとか。とかく大元となる「原料」の枯渇は、避けがたいものと思います。

 上記のスキームは、先進国が開発途上国に投資できるだけの財力があることを前提しています。フェアトレードにおいては、搾取を排除し、労働者たちにも、その国においてきちんと生活できるだけの賃金を保障します。つまり、コストがかかります。それは、商品価格が上がるということです。

売店などでは、仕入れ価格が上昇しても、買い控えを控えるために、利幅を削って、販売価格を据え置くことが、よくあります。ここでワリを食っているのは、末端の小売業です。

 先進国においては人口減少が問題とされています。人口を減らしながら経済成長し続けるには、単純にいって、客単価を上げるしかないわけですが、そうなると、先進国消費者にそれだけの所得がなければ、買うことができません。海外投資にしても、それは企業の資本投下であって、その結果、高額な商品を生産したところで、売れなければ利益にならず、資本を増やすことができません。そして、貧しい先進国住民は、餓死し、貧富の差はますます拡大するでしょう。それは、資源をもたないかつての開発途上国といった絶望的な状態といえるのかもしれません。

 経済成長を是とする考え方そのものに、持続性がないと思います。(先進国内の貧富格差を、フェアトレードは解決しない)

認証ビジネス

 フェアトレードが、草の根的消費者運動であらねばならない理由は、消費者の倫理観にすべてが掛かっているためです。倫理的であるために払わねばならないコストは、「普段よりも高いコーヒーを買うお金」だけではありません。身の回りの製品が「エシカルであるか」を、調査研究する手間も必要だからです。

 その手間を惜しんで「なんとなくエシカル」「どちらかというとフェア」という姿勢で、「フェアトレード」を気取る人のためにあるのが、「製品認証制度」です。

 もちろん、認証ラベルの取得基準は厳密に審査されています。しかし、その厳密さを維持するために、認証不可能な品種、品目が大半をしめているのが実情のようです。

 そのため、認証ラベルそのものの認知度も請求力も低下してしまい、ブランディングの意味をなさないという弊害も起こっているそうです。

 また、企業は、「フェアトレード製品」のお墨付きによって、「価格」から「倫理」に消費マインドを転換した富裕層に向けて、コスト上昇分+これまでの利幅分という価格設定が可能だと考えるかもしれません。

 認証とは、利他的な動機(遠くの第三者へ共感)から活用されなければ、まったく意味がないと、書かれていました。それが消費者の倫理感なのだと思います。

エシカル

 エシカルについては、範囲が広すぎて明確な定義はできていないといいます。しかし、消費者それぞれが、自らの倫理基準で、たとえば、熱帯雨林を守りたい、とか、児童労働は許せないとか、軍事産業に金を払いたくない、などを満たした製品に、アクセスできるような「ガイド」があれば、そのガイドを紐解いて、ネットを通じてでも「買って応援」することができます。

隔月刊 "Ethical Consumer"

 そのために指標として、マンチェスターに本部をもつ機関の雑誌が紹介されていました。

 毎号、特集品目を定めて、その商品を販売している各企業の倫理性「ランキング」を発表している。

これは、Naming and Shaming 戦略として知られているもので、日本でも、ブラック企業名を公表するよ、といった形で用いられています。

項目としては、個別商品のリスト、製造元、企業系列を記載して、

・原料供給元の国の政治体制が市場を抑圧していないか
・土地所有の形態は民主的か
労働組合は機能しているか
・労働は労働条件に問題はないか
・環境への配慮
・軍事との関係
・人種差別との関係

などの項目で評価する。最終項目に「問題あり」がつくと、

・抗議、ボイコットへの呼びかけに○がつくというものです。

いま、検索をしてみたところ、「投資」の観点から「SDGs」の項目に関するニュースをまとめているサイトがありました。詳しくみていませんが、とりあえずURLを。

sustainablejapan.jp

K.ポラニーさんと吉沢さんの研究

「私」「公」「共」の三つの区分のよる経済活動を分析について書かれていました。

「私」(または「企業」)は、市場経済(自由・競争)
「公」(行政)は、計画経済(統制・管理)
「共」(共同体・市民社会)互酬的経済(自治・参加・協同)

 それぞれを三角の頂点として円を描き、交わったところに、「第三セクター」とか、「協同組合」とか「コミュニティートラスト」とか「NGO]とかを配置している、わかりやすい表ですが、「共」の部分のくくりが粗雑だったり、「公」の「計画経済」というのは実情にそぐわないし、「国」は外国に対しては「私」であるという観点も抜けてしまいます。

 フェアトレードの活動主体の整理ということで、この図をもちいているのだと思いますが、具体性に乏しいものに感じられました。

フェアトレードタウン

 その意味で、フェアトレードタウンというものも、名目だけのものだという印象を受けました。

 フェアトレードエシカル消費マインドは、これから持続的に地球に住み続けるためには、絶対に必要なものだと思います。「公」は、そのための啓蒙を率先して行う草の根活動を支援する。という立ち位置で十分で、ことさら「長」が「やるよ!」といえばOKみたいなもんはポーズにすぎないと思います。具体的には、人口あたりのフェアトレード店の数とかの条件を満たさねばならないそうですが、「フェアトレードタウン」という大雑把なくくりは、かえって問題点を見えなくするのではないかと思いました。

 単純にいえば、フェアトレード製品の「販売品目数」「販売額」「購入品目数」「購入額」の四つを、ランキングにしてあれば、どの都市の住民がフェアトレード意識が高いかは一目瞭然です。啓蒙活動とか、店舗数とか、「公」の協力などというものは、開発途上国にとっては、まったく無意味です。「売れなければ持続しない」のですから。

 いかに売り、いかに買っているか。「取り組み姿勢」のようなものは、それに付随するでしかありません。いかに、イベントを行ってPRしたところで、扱い高が低ければ、現地の方には何の影響も与えないのです。

フェアトレードタウンが増えたことで、開発途上国の何人の人が喜んでくれるのか」という問いかけは、重く受け止めるべきです。

さいごに

 フェアトレードは、開発途上国の人々のためにあります。それは、地球に持続的に寄生して生き永らえようという全人類に必要な「エシカル消費」=「エシカル生産」実現のための強力な柱の一本だと、分かりました。

読んでませんが、検索したらありました。

消費から持続可能な社会をつくる市民ネットワーク - 買い物は投票!

エシカルアクションガイドブック『私たちの行動が未来をつくる ー めざせ!消費者市民 -』 - 出版物 - 公益財団法人 消費者教育支援センター

alternas.jp

一般的に、こういったメディアについては、政治色とか吟味しないといけない場合も多いので、これから読んでいってみようかなと思ってます。