望月の蠱惑

enchantMOONに魅了されたので、先人の功績を辿って、自分も月へ到達したい。

ざっくりさん講読7 「ミリンダ王の問い」8.第七章 (第一編完)

第一 十六種の記憶形式

ミリンダ王(以下ミ)「記憶っていうのは、いくつの出来方があるのかな?」

ナーガセーナ(以下ナ)「十六種類さ。一個ずつ説明しようか?」

ミ「是非」

ナ「①自覚的回想 ②外部からの助成 ③強烈な印象 ④しめしめ、という気持ち ⑤損した、という気持ち ⑥似ているなってものから ⑦相違点から ⑧おしゃべりから ⑨特徴から ⑩思い出すことから ⑪記号から ⑫算術から ⑬暗誦から ⑭修行から ⑮本を参照することから ⑯抵当物から ⑰経験から。となっております。では最初から簡単に解説します」

ミ「是非」

ナ「①思いだしちゃうから ②ちゃんと思い出してよっていわれるから ③王様になった日のこと、覚えてるでしょ? ④あんとき上手いことやったよなぁって ⑤あんときしくじったなぁって ⑥あの駱駝、俺の駱駝と似てるわと自分の駱駝を思い出したりすること ⑦羊羹って、四角くいよな、黒いよな、少し固かったな、甘いな というふうに別別に思い出すでしょ ⑧ね、三年前に、一緒に、沖縄いったでしょぉ~ って言われたりしてね ⑨ あ~ たしか舌にピアスしてたわ、っていう特徴からね ⑩一昨日の夜8時から9時の間、何してたか思い出せよって言われたりするとね ⑪単語のつづりとか、覚えるでしょ ⑫沢山の桁の計算とかしてるとわかるでしょ ⑬覚えるから ⑭修行では過去生を思い出すからね ⑮前にどんな条例つくったっけ。ちょっと条例集もってきて、といって読めば思い出したりすること ⑯あ~、家屋敷を抵当にいれたのは放蕩息子のせいです ⑰経験したから思い出せるんですよ

ミ「そ、そうかぁ」

※ 記憶とは想起、である。という観点はとてもおもしろいと思う(Miyako.T)

第二 念仏によるすくい

ミ「百年悪いことしても死に際に「仏様~」っていえば許されるとか、たった一回悪いことしたら地獄行きだとか、しんじられないんだけど」

ナ「ね。小さい石なら船がなくても浮かぶ?」

ミ「無理だよ」

ナ「ダンプに一杯の石だって船にのせれば浮くでしょ?」

ミ「当然だね」

ナ「善行とは船なのですよ」

ミ「なるほどねぇ~」

第三 修行の目的

ミ「君たちは、過去の苦を捨てるために努力してるの?」

ナ「違うよ」

ミ「じゃ未来の苦?」

ナ「(ブンブン)」

ミ「じゃ、今だ。今の苦を捨てるために努力してるんだろ!」

ナ「そうではありません」

ミ「じゃ、なんのため?」

ナ「願わくはこの苦が滅せられ、他の苦が生じませんようにってね」

ミ「で、未来の苦、なんて存在するの?」

ナ「いいえ」

ミ「無いもののために頑張るだなんてお利口だねぇ」

ナ「敵国が攻めてくることがありますか?」

ミ「ん? そりゃあったね」

ナ「そうなって初めて、兵とか武器とか塹壕とか用意するんですか?」

ミ「違うさ。日ごろから準備してるんだよ」

ナ「どうして日ごろから準備するんですか?」

ミ「未来の敵を防ぐためさ」

ナ「未来の敵は今いるんですか?」

ミ「今はないさ」

ナ「現に存在しない敵のために今から準備してるだなんて、あなたもお利口さんですねぇ」

(他に、渇きが起こってから井戸を掘るか? 空腹になったとき、畑を耕すか? という譬えがある)

ミ「ああ、ごもっともだねぇ」

第四 神通力をもつ者

ミ「梵天界は、ここからどのくらい遠いのか?」

ナ「高楼ほどある石がそこから落ちるとすると、一昼夜に四万八千ヨージャナずつ落ちて、四ヶ月後にやっと地上に落ちてくるほどです」

ミ「神通力があると、この地で死んだら梵天界に現れるっていうじゃない? そんな遠くにそんなに簡単にいけるはずないよね」

ナ「君、出身地はどこで、どのくらい遠くだっけ?」

ミ「アラサンダ。ここから二百ヨージャナの彼方さ」

ナ「君がそこでやった事業のこと、今思い出せるでしょ?」

ミ「もちろんだよ」

ナ「今、君は二百ヨージャナを簡単に行き来したんだよ」

ミ「そうなのかぁ」

第五 死後の再生までの時間

ミ「ここで死んだ奴が、梵天界に生まれるのと、カシュミーラ地方に生まれるのとではどっちが遅く、どっちが早い?」

ナ「それは同時です」

ミ「なんでなんで?」

ナ「君の生まれた都市はどこでどのくらい離れていますか?」

ミ「カラシって都市だ。距離は二百ヨージャナアだよ」

ナ「ではカシュミーラまでは?」

ミ「十二ヨージャナだな」

ナ「まず、カラシを。続いてカシュミーラをそれぞれ思い出してみてください」

ミ「やったよ」

ナ「どっちが思い出すのに時間がかかりましたか?」

ミ「べつに、一緒くらいだったよ」

ナ「そういうことです」

ミ「……」

ナ「では、高い枝と低い枝に同時に鳥が止まったとしましょう。そのとき、どちらの影が先に地面に映りますか?」

ミ「同時だね」

ナ「そういうことです」

ミ「そういうことだったのか」

第六 智慧を助けるもの ―さとりを得るための七つの支分

ミ「さとりを得るための手がかりとなるものはいくつありますか?」

ナ「七つ」

ミ「で、どれだけの手がかりが必要なのかな?」

ナ「一つだね」

ミ「じゃ、なんで七つって言うのさ?」

ナ「剣が鞘収めてあって、手に取ることができないときあなたはその剣で斬るべきものを切れますか?」

ミ「できない」

ナ「それと同じで、『法を区別して知ること』という一つの手がかりがないなら、他の六つが無意味だからです」

ミ「そういうことかい」

第七 功徳の増大によるすくい

ミ「善行の福と悪行の禍とではどっちが大きいかね?」

ナ「福>禍」

ミ「なんで?」

ナ「悪行をした者は後悔するからそれ以上増えない。でも善行は後悔しない。むしろ愉悦が生じて喜びが生じて安らかで安楽で統一して如実に理解するから増える一方さ。

ミ「ふうん」

第八 知識の重視 ―知って悪をなすのと知らないで悪を成すのとの相違

ミ「知ってて悪行するのと知らずに悪行するのとではどっちが禍が大きいですか?」

ナ「知らないほう」

ミ「ほんじゃ、私の息子や部下たちが知らずに悪行をしたら二倍の罰にするよ」

ナ「ね。焼けた鉄の玉を、知っていて掴むのと知らずに掴むのとではどっちがひどく焼けどすると思いますか?」

ミ「知らないほうだね」

ナ「そういうことなんですよ」

ミ「ふむふむ」

第九 神通力と心の自在力

ミ「この肉体のまま、ウッタラクル(来たの理想境)とか、梵天界とか、他の州とかに行ける者がありますかね?」

ナ「そういうものもありますね」

ミ「どうやって?」

ナ「君は、ほんの少しジャンプしたり、小さくジャンプしたりしたときのことを思い出せますか?」

ミ「そんとき俺は、ものすごく高くジャンプできたね」

ナ「なぜ、そんなにジャンプできましたか?」

ミ「ジャンプするぞ。ジャンプするんだ。と思ったら、身体が軽くなったんだ」

ナ「神通力があって、心の自在を得た修行者であれば、心の中で身体を上昇せしめて、心の力で空中をいけるということです」

ミ「いいね」

第十 自然界にありえないもの ―七百マイルの長さの骨

ミ「百ヨージャナもある長い骨があるっていったよね? そんな長いものこの地上にはないのに、なんで?」

ナ「大海には五百ヨージャナの長さの魚がいると聞いたことはありませんか?」

ミ「あるよ」

ナ「その魚の骨ならね!」

ミ「そうだね!」

第十一 超人的な生理現象

ミ「君たち、呼吸をやめることができるんだって?」

ナ「うん」

ミ「どうやって?」

ナ「君、誰かの鼾を聞いたことあるかい?」

ミ「あるな」

ナ「その鼾って身体を屈すると止んだんじゃない?」

ミ「そうだった」

ナ「なんの修行もしてない奴の鼾だって、身体を屈めるだけで止まるだからさ。ものすいごい修行してる俺らが、呼吸をとめられないわけないと思わねぇ?」

ミ「だね」

第十二 自然界の事象、海に関する論議

ミ「海ってさ、どうして水を海って呼ぶのかね?」

ナ「水と同じだけの塩。塩と同じだけの水。よって海」

ミ「うんうん。で、海はどこでも塩辛いのはなんで?」

ナ「水が永遠だからだよ」

ミ「永遠だからか」

第十三 智慧の切断作用

ミ「とっても細かなものを切断できるかな?」

ナ「できるよ」

ミ「ん? そのとっても細かなものってナニ?」

ナ「法。でも諸法が全部細かいわけじゃなくて、超デカイのもある。すべて切断されるべきものは智慧によって切断するんだ。智慧を切断できるものはない」

ミ「ごもっともです」

第十四 霊魂と精神作用との区別

ミ「識別。智慧。個我。霊魂。これらの諸法は意義も文字も異なっているのかな? それとも字が違うだけ?」

ナ「識別:区別して知ること。智慧:明らかに知ること。個我の存在は認められません」

ミ「個我がないなら、何が世界を識別してるのさ?」

ナ「もし個我があるなら、身体から出たほうがより世界が認識できるのではないのですか?」

ミ「い、いえ…」

ナ「だから、認めないの」

ミ「わかりました」

第十五 すぐれた心理現象の分析

ナ「大先生はすごいことをやったんだ」

ミ「なにしたの?」

ナ「接触と感受と表象と意思と心とを、区別したんだ」

ミ「譬えてくれない?」

ナ「海の水をちょっと飲んで、どこの川の水か当てられる?」

ミ「無理だよ」

ナ「それより難しいことをやったんだ」

ミ「お見事!」

第十六 対論を終えて

ナ「いま何時?」

ミ「(もろもろの現象とその観察から)知っているさ」

民衆「大王よもっともです。修行者は賢者です」

ミ「お前たち… そうだ。ナーチャンは賢者だ。すげえ師がいて、優秀な俺という弟子がいれば、賢者は真理を会得するのに長い時間はかからないだろう!」

 そしてナーガセーナに、高い着物と、八百日分の食事の提供となんでも好きなものを献呈することを約束した。ナーガセーナは「いらねぇよ」と言ったが、ミリンダ王はこう説明した。

「いらないのは知ってる。でも、ナーガセーナはミリンダ王に悟りを起こさせたが何ももらわなかったらしい、というのは、一部のヤッカミを生む。だから、これを受け取ってそういう輩から身を守るんだ。それに私も、ナーガセーナから信仰を得たくせに何の礼も尽くさないやつ。といわれるのは困るんだ」と。

ナ「では、そのように」

二人が分かれてのち、二人はともにこの対論について人に尋ねた。たずねた人はみな

「すべてを正しく質問し、すべてを正しく答えた」と。そして二人もまた、そのように思った。

第一編完