はじめに
先日、ネタ番組を見た。東野幸治さん司会、隣に叶姉妹。オープニングがたむけんの出落ちスベリ、というコテコテなものだが、そのあたりはどうでもいい。ネタが見たいからネタ番組を見るのであって、勝敗とかお笑い好き芸能人の感想とかは飛ばす。
スタジオでのネタ
ネタ時間は3分そこそこ? 他のネタ番組では、フルサイズに近い尺で披露していたネタを、雑に縮めた使いまわしが大半を占める。
途中に挟まる、平野ノラさんの前室レポートなども、飛ばす。
楽してるCOWCOW,おもしろさが分らないサンシャイン池崎、新喜劇ノリのコントなどはみな飛ばす。
結局、スタジオでのネタは、ほとんど記憶にのこらなかった。パンクブーブー、ナイツ、ノンスタイル、子供を誘拐してママとお母さんの使い分けに興味を示す誘拐犯のネタ(コンビ名忘れた)、サンドウィッチマンなんかがおもしろかった。
ヒロシです……
@hiroshidesu0214
もっとも、感心したのは「ヒロシ」でした。ヒロシさんは、時々ネタ番組に出てくる。そして出てくるたびに私の知る限りでは必ず新ネタを披露してくれる。あのフォーマットを崩さず、確実に進化を遂げているのが素晴らしい。
焼きプリン
焼きプリン⇒いいことあった?と聞かれた⇒……誕生日です……
今回のこのパターンがひじょうに新鮮だった。
ヒロシさんのネタで、人に何かを言われた場合、たいていは、その言われたことでオチている。
今回も、「焼きプリン」という絶妙な、豪華だか質素だか貧乏くさいんだか、お洒落なんだか、ブリュレではなくて、焼きプリンを、ただ食べていただけなのに、「いいことあったのかな」なんて聞かれてしまう。お、ヒロシさん、今日は浮かれてるな。とか思われてしまう。ひじょうに奮発しているな、という印象を与えているわけでもない。ちょっと気分がいいのかな? くらいの感じで、そう聞かれているのだ。
ヒロシさんは、当然、浮かない顔をしている。焼きプリンの上のシール(それはやはりプッチンプリンのような容器に入っているような気がする。コンビニで、200円しないくらいのものではないかと想像できる)を剥がすとき、無意識にニコニコしていたのだろうか、などとドギマギしているヒロシさんの姿が目に浮かぶ。
自虐からの脱自
ここで、ヒロシさんは、言葉を返す必要はない。そんな些細なものを買って食べているだけで、「いいことあったんだね」なんて思われてしまうくらいの男なんだ、そんな寂しい生活を送っていると思われているんだという自虐で、成立する。
当初のヒロシさんは、この自虐に対して、どこかやるせない、というか、抗うというか、苛立ちを、ほんの少しだけ、隠していたような気がした。だから、このネタにしても、「あ~、どうせ俺はそんな風に思われているとです…」「どうせ…」そう。このヒガミの要素が、かつてのヒロシさんの自虐には含まれていた。
しかし、その後ヒロシさんが、時々呼ばれるネタ披露の場で披露する新作から、このヒガミ要素がどんどん、脱色されているのだ。
「誕生日です…」とボソリと独りごちるヒロシさんの境地には、完全なる諦観が見受けられる。決して「いいことあったの?」と尋ねた人に向かって、答えているのではないのだ。ヒロシさんにとって、他人の言葉などもうどうでもいいのである。
嘘…
「その日は仕事です」と言ったら「嘘でしょ」と言われたとです。……嘘です。
についても、その嘘は、もはや「見栄」ではない。
嘘だと思われなければ、それこそ嘘だ、というくらいに仕事の無い、自らのこの生活へのゆるぎなき自信あっての「嘘です」なのである。ここでヒロシさんは、自らの存在意義を再確認しているのだ。「その日は仕事だ」「嘘でしょ」「嘘です」これは、もはや「嘘」ではないのである。
含羞
(立ち位置を少し前に出て)……3Dヒロシです
とても恥ずかしそうに、そう口にするヒロシさんの含羞は、例えば、マギー審司さんの、手品のネタの値段をボソっと口にするときの、申し訳なさそうな、なんともつまらなそうな「300円…」とは違っている。マギー審司さんの含羞は、初期のヒロシさんのものに似ている。そして、その点で、師匠マギー司郎の境地には至らないのではないかと思う。
追記:マギー審司さんの含羞は、「この私がこんなしょうもないことをしている」というもので、ヒロシさんの含羞は「生まれてすいません」に近いもののように感じられる。
盆踊りでネタ披露
別スタジオで、やぐらを組んで輪になって盆踊りをしている。いわゆる一発屋芸人が、ヒトネタずつ披露できるコーナーである。
髭男爵、レギュラー、クール・ポコ、小梅太夫、ダンディー坂野、若井おさむ、大西ライオン(以上敬称略)などがネタを披露した。
レギュラーさん
レギューラーさんは、スタジオに呼ばれるべきコンビだと思う。あるある探検隊のネタはすべて素晴らしいと思うし、勢いだけの一発屋ではないのに残念だ。彼らの新ネタを次々と、浴びるように、鑑賞したいものである。
消える記憶
ただ、この番組においてレギュラーさんのネタがどんなものだったのかは、もはや記憶に残っていない。他の全くどうしようもない人達の無味乾燥なネタのいくつかが記憶に残ってしまっていることが、とてつもなく口惜しい。そんなものを憶えていられるなら、なぜ、久しぶりのレギュラーさんのネタを憶えていないのか?
それは、面白いネタを憶えておく場所と、つまらないものが残ってしまう場所とが、別れているからだ、というのはまた別のお話で
追記:先日、ネタ集を読んでいてこの時のネタを思い出した。「ジジイの馴れ初めエロすぎる」だったと思う。
コウメ太夫さん
覚えていなかったわけは、レギュラーさんのネタ、やっぱりいいな、と思った後で、コウメ太夫さんの二回目のネタを聞いてしまったからだと思う。
コウメ太夫さん。エンタの時は無理やりな扮装とキャラで、おもしろくもないことに憤慨する、というどうしようもない一山いくらが出てきたな、程度にしか思っていなかったのだが。
スクラップアンドビルド
エンタを離れて、時折呼ばれるネタ披露で、少しずつ、少しずつ、セルフパロディが行われ、キャラの内部解体が進んでいるような気がしていた。
そして今回の扱い。一発屋回顧コーナーとはいえ、あまりにもおざなりな扱い。一時はキャラを離れてムーンウォーク世界一の栄誉に耀いた男の、怒りが、爆発したのがこのネタだった。
♪階段を上がってる~と思っていた~ら~、降りてま~し~た~♪ チクショー!
ムーンウォーク世界一の身体のキレをもってすれば、ここにパントマイムをぶち込むこともできたかもしれないが、その片鱗すらうかがわせずに、ヤケクソとしかいえないテンションでやりきったこのネタに、レギュラーのネタは、すっとんでいったのだった。
コウメ太夫。侮りがたし。
おわりに
私はネタが好きです。せっせとネタ番組を見て、あーだこーだ言ってたい。難しいことはいい。笑いを、恐ろしい笑いを、もっとください。お願いします。