望月の蠱惑

enchantMOONに魅了されたので、先人の功績を辿って、自分も月へ到達したい。

自動短歌生成装置「犬猿」(星野しずるさん)に学ぶ短歌の形

はじめに

ファンです。

sasakiarara.com

このアルゴリズムによって自動生成される短歌は、わたしが「短歌」だなと思える形式と、エモさを備えている。

わたしは、散文的叙述ばかり行い、論旨、繋がりが明確で簡潔な、状況を的確に伝えられる文をかくように心がけてきた。

それは、わたしが考える「短歌」という形式にとっては、著しい妨げとなる「手癖」となっていた。

 俳句について、わたしは徹底的にホトトギス的「写生」であるべきだと考えているし、文についても、基本的にはフォーマティブであるべきと思い、そのように書いている。このことは内容の無味乾燥さとは無関係である。が、それはまた別の話だ。

 短歌について、わたしはアララギの写生を採らない。短歌という器は、私にとっては、イリュージョンを盛ることが最良であると思うからだ。

 その中間にあるのが「自由律文」であるが、それもまた別の話である。

今回のブログは、この「犬猿」によって自動生成される星野しずるさんの「短歌」を、吸収するべく、ささやかな分析を行う。

 だが、具体的な「リバースエンジニアリング」を行うという意味ではない。

 このような自動生成プログラムが稼働し、それが理想的な短歌の形を成す事実は、既存の短歌の研究、分析、アルゴリズム化はすでに、終了していることを意味している。

短歌にふさわしい名詞に、短歌にふさわし形容のしかたで、短歌の型にあてはめていく試行によって、短歌は短歌になる。

 

■現在の語彙数:530個(名詞部=230個、修飾部=150個、述部=150個) / 現在の構文数:20種類

と、記されているこの構文20種類を、修飾語+名詞+述部 式の公式にし携えれば、あとは変数の問題だけということになる。

このブログでは、そのような公式化を目的としない

 なぜならば、明快な公式化によって、わたしのシナプス回路がズルをして、その他の経路を探索しなくなってしまうからである。

 わたしは、ブラックボックスによる無駄な試行に、広がりを感じるオールドタイプなのだ。だから、たとえ公式化可能な事象であるとはいえ、それを明確化せずに、ぼんやりさせておくほうを望むからである。

 これから、2021年1月29日 の夕方の1時間ほどのあいだに、自動短歌生成装置「犬猿」で生成した星野しずるさんの短歌を並べ、ある程度分解し、そこそこに分類し、なんとなく気付いたことを記してみる。

自動短歌生成装置「犬猿」による星野しずるさんの短歌に学ぶ短歌の形 

定型

いわゆる 5・7・5/7・7 の型。

以下のようなパターンが考えられる。

上の句→下の句(叙述)

真実を探した風のささくれは流行り言葉のノートを憂う
5・7・5/7・7 (しんじつ を)(さがし た)(かぜ の)(ささくれ は)/(はやりことば の)(のーと を)(うれ う)
<真実を探した風のささくれ><流行り言葉のノート>

 

曲線のごとく少女を待っているデフォルメされた雪の横顔
5・7・5/7・7 (きょくせん の)(ごとく)(しょうじょ を)(まっ て いる)/(でふぉるめ された)(ゆき の)(よこがお)
<曲線のごとく少女を待っているデフォルメされた雪の横顔>

 

 臆病なおとぎ話を集めたら夏の魚に教わった街
5・7・5/7・7 (おくびょう な)(おとぎばなし を)(あつめ たら)/(なつ の)(さかな に)(おそわ った)(まち)
<臆病なおとぎ話><夏の魚に教わった街>

 

つぶやきに気づく魔法が知っている人それぞれのはずむつまさき
5・7・5/7・7 (つぶやき に)(きづく)(まほう が)(しって いる)/(ひと)(それぞれ の)(はずむ)(つまさき)
<人それぞれのはずむつまさき>

 

ささくれを待つ日の眠るまどろみにつつみこまれるにぎやかな愛
5・7・5/7・7 (ささくれ を)(まつ)(ひ の)(ねむ る)(まどろみ に)/(つつみこま れる)(にぎやか な)(あい)
<ささくれを待つ日><にぎやかな愛>

 

過ちになった宇宙のうつろいを見ないで笑う朝焼けでした
5・7・5/7・7 (あやまち に)(な った)(うちゅう の)(うつろい を)/(みな い)(で)(わら う)(あさやけ)(でし た)
<過ちになった宇宙>

 

あの夏の闇に恋して結末はねじれた僕を見つめ続ける
5・7・5/7・7 (あの)(なつ の)(やみ に)(こい して)(けつまつ は)/(ねじれ た)(ぼく を)(みつ め)(つづけ る)
<ねじれた僕>

 

はじまりの中に地層に隠された半透明の夏の音楽
5・7・5/7・7 (はじまり の)(なか に)(ちそう に)(かくされ た)/(はんとうめい の)(なつ の)(おんがく)
<半透明の夏の音楽>

 

恋人のような孤独な音楽は残りわずかな過ちを追う
5・7・5/7・7 (こいびと の)(よう な)(こどく な)(おんがく は)/(のこり)(わずか な)(あやまち を)(おう)
<恋人のような孤独な音楽>

 

生真面目な夕焼け雲に愛されて繰り返される時が広がる
5・7・5/7・7 (きまじめ な)(ゆうやけぐも に)(あいされ て)/(くりかえさ れ る)(とき が)(ひろが る)
<生真面目な夕焼け雲>

上の句=下の句(同異)

退屈な僕のかたちを確かめてミルクレープはやさしい笑顔
5・7・5/7・7 (たいくつ な)(ぼく の)(かたち を)(たしかめ て)/(みるくれーぷ は)(やさしい)(えがお
<退屈な僕のかたち><ミルクレープはやさしい笑顔>

 

手ざわりに気づくあなたの鳥かごは百年前の音楽ですか
5・7・5/7・7 (てざわり に)(きづく)(あなた の)(よこがお は)/(ひゃくねんまえ の)(おんがく)(です)(か)
<あなたの鳥かごは百年前の音楽>

 

真実をのぞきこんだら街じゅうが吐息の夢を守る弱虫
5・7・5/7・7 (しんじつ を)(のぞき)(こんだ ら)(まちじゅう が)/(といき の)(ゆめ を)(まも る)(よわむし)
<吐息の夢を守る弱虫>

上の句:下の句(対比)

ふわふわの夢の女神を見ていたらあなた自身は無言のかたち
5・7・5/7・7 (ふわふわ の)(ゆめ の)(めがみ を)(みて)(いた)(ら)/(あなた)(じしん は)(むごん の)(かたち)
<無言のかたち>

 

夕暮れの自分自身が好きだった百年前の過去を怖がる
5・7・5/7・7 (ゆうぐれ の)(じぶんじしん が)(すき だっ た)/(ひゃくねんまえ の)(かこ を)(こわが る)
<百年前の過去>

 

退屈な理想主義者が好きだった残りわずかな父を見ないで
5・7・5/7・7 (たいくつ な)(りそうしゅぎしゃ が)(すきだ った)/(のこりわずか な)(ちち を)(み ない)(で)
<退屈な理想主義者><残りわずかな父>

上の句|下の句(切れ)

おそろしい猫の絵画のようだった体温計はどこかの詩人
5・7・5/7・7 (おそろし い)(ねこ の)(かいが の)(ようだっ た)/(たいおんけい は)(どこか の)(しじん)
<おそろしい猫の絵画><体温計はどこかの詩人>

 

街じゅうの一番星がかなしくて僕の詩人に飽きている傘
5・7・5/7・7 (まちじゅう の)(いちばんぼし が)(かなしく て)/(ぼく の)(しじん に)(あきて いる)(かさ)
<僕の詩人に飽きている傘>

 

まぶしげな涙の傘に飽きている体を見てもつめたい砂漠
5・7・5/7・7 (まぶしげ な)(なみだ の)(かさ に)(あきて い る)/(からだ を)(みて も)(つめた い)(さばく)
<つめたい砂漠>

 

うつくしいらせんの街のようだった短歌を守る孤独な落ち葉
5・7・5/7・7 8 (うつくし い)(らせん の)(まち の)(ようだ った)/(たんか を)(まも る)(こどく な)(おちば)
<うつくしいらせんの街><孤独な落ち葉>

定型でキレの位置が違うパターン

にぎやかな季節を見つめ意味のない日なたの犬になったらカーブ
5・7/5・7・7 (にぎやか な)(きせつ を)(みつめ)/(いみ の)(ない)(ひなた の)(いぬ に)(なった ら)(カーブ)
<にぎやかな季節><意味のない日なたの犬>

 

罪のない瞳を殺し君だけの手紙の愛を集めて呪い
5・7/5・7・7 (つみ の)(ない)(ひとみ を)(ころ し)/(きみだけ の)(てがみ の)(あい を)(あつめ て)(のろい)
<罪のない瞳>

 

金色の夢の四月を見るときのあんぱんまんはあかるい日なた
5・7・5・7/7 (きんいろ の)(ゆめ の)(しがつ を)(みる とき の)(あんぱんまん は)/(あかる い)(ひなた)
<金色の夢の四月><あんぱんまんはあかるい日なた>

 

罪人のどこかで黒い八月をたしかめている君だけの過去
5・7・5・7/7 (つみびと の)(どこか で)(くろ い)(はちがつ を)(たしかめ て)(い る)(きみだけ の)(かこ)
<黒い八月>

定型で切れが複数個所あるパターン

過去じゃないとけた香りをあきらめて花の九月に慣れてしまって
5/7・5/7・7 (かこじゃ ない)/(とけた)(かおり を)(あきらめて)/(はな の)(くがつ に)(なれ て)(しまっ て)
<過去じゃないとけた香り><花の九月>

 

恋だった銀の言葉に隠された花の力を見つめ続ける
5/7・5/7・7 (こい だっ た)/(ぎん の)(ことば に)(かくされ た)/(はな の)(ちから を)(みつ め)(つづけ る)
<銀の言葉>

定型のキレがないパターン

5・7・5・7・7 でどこにも切れがない形

散文の一部のようであったり、一つの形容詞節化しているもの。体言止めの傾向。

 

階段を見送っている僕だけの景色の犬の前に罪人
5・7・5・7・7 (かいだん を)(みおくって い る)(ぼくだけ の)(けしき の)(いぬ の)(まえ に)(つみびと)
<僕だけの景色の犬の前に罪人>

 

つまさきに伝わる夏の幕切れのあとで静かなカナリアとなる
5・7・5・7・7 (つまさき に)(つたわ る)(なつ の)(まくぎれ に)(あと で)(しずか な)(カナリア と)(なる)
<つまさきに伝わる夏><静かなカナリア

 

罪人に向かって冬のうつろいにみえる無限の初恋を知る
5・7・5・7・7 (つみびと に)(むかっ て)(ふゆ の)(うつろい に)(みえ る)(むげん の)(はつこい を)(し る)
<冬のうつろいに見える無限の初恋>

 

うつろいに隠されている君だけの地層の音を守る少年
5・7・5・7・7 (うつろい に)(かくされて いる)(きみだけ の)(ちそう の)(おと を)(まも る)(しょうねん)
<地層の音>

 

ともしびに向かってさめたたましいであるかのような透明な影
5・7・5・7・7 (ともしび に)(むかっ て(さめ た)(たましい で)(あるかのよう な)(とうめい な)(かげ)
<さめたたましいであるかのような透明な影>

 

まばたきが広がる雪の鉄塔になったあなたの六月でしょう?
5・7・5・7・7 (まばたき が)(ひろが る)(ゆき の)(てっとう に なった)(あなた の)(ろくがつ)(で しょう?)
<まばたきが広がる雪の鉄塔になったあなたの六月>

 

アラビアの男を嫌う気の毒な呼吸の人のあいだに地層
5・7・5・7・7 (あらびあ の)(おとこ を)(きら う)(きのどく な)(こきゅう の)(ひと の)(あいだ に)(ちそう)
<気の毒な呼吸の人>

定型の上の句と下の句の間に一文字空け

5・7・5□7・7 となる。スペースは、「、」「。」より長い切れとなるため、形としては 上の句|下の句 となる。

 

退屈な挫折の午後のことが好き 誰かにみえるおどけた写真
5・7・5・□7・7 (たいくつ な)(ざせつ の)(ごご の)(こと が)(すき)□(だれか に)(みえ る)(おどけた)(しゃしん)
<退屈な挫折の午後><誰かにみえるおどけた写真>

 

失敗はワイングラスの夢かしら 狂った花のようだった罪
5・7・5・□・7・7 (しっぱい は)(わいんぐらす の)(ゆめ)(かしら)□(くるった)(はな の)(よう だった)(つみ)
<失敗はワイングラスの夢><狂った花のようだった罪>

 

その先のおとぎ話を見ています 神経質な愛に追われて
5・7・5・□・7・7 (そのさき の)(おとぎばなし を)(みて いま す)□(しんけいしつ な)(あい に)(おわれ て)
<その先のおとぎ話><神経質な愛>

 

退屈な何も言わない街ですか 植物園を待ち続けよう
5・7・5・□・7・7 (たいくつ な)(なに も)(いわな い)(まち)(です)(か)□(しょくぶつえん を)(ま ち)(つづけ)(よう)
<退屈な何も言わない街>

 

気の毒な夢にまで見た罪になれ 金木犀を大切にする
5・7・5・□・7・7 (きのどく な)(ゆめ に)(まで)(み た)(つみ に)(な れ)□(きんもくせい を)(たいせつ に)(する)
<気の毒な夢にまで見た罪>

 

誠実な短歌でしょうか いくつものカーブの家を失い呼吸
5・7・□・5・7・7 (せいじつ な)(たんか)(でしょう)(か)□(いくつも の)(カーブ の)(いえ を)(うしな い)(こきゅう)
<誠実な短歌><いくつものカーブの家>

 

にせものの愛の時代のことが好き 水族館は真冬の挫折
5・7・5・□・7・7・ (にせもの の)(あい の)(じだい の)(こと が)(すき)□(すいぞくかん は)(まふゆ の)(ざせつ)
<にせものの愛意の時代><水族館は真冬の挫折>

 

真っ暗なナイフの波は見たくない 未来に気づく汚れた悲鳴
5・7・5・□・7・7 (まっくら な)(ないふ の)(なみ は)(みた く ない)□(みらい に)(きづ く)(よごれ た)(ひめい)
<真っ暗なナイフの波><汚れた悲鳴>

 

ぶらんこの呪いでしょうか 真っ暗な深紅の猿にあこがれる音
5・7・□・5・7・7 (ぶらんこ の)(のろい)(でしょう か)□(まっくら な)(しんく の)(さる に)(あこがれ る)(おと)
<ぶらんこの呪い><真っ暗な深紅の猿にあこがれる音>

 

初恋は眠り薬の時のよう 孤独な犬の向こうから波
5・7・5・□・7・7 (はつこい は)(ねむりぐすり の)(とき の)(よう)□(こどく な)(いぬ の)(むこう)(から)(なみ)
<初恋は眠り薬の時><孤独な犬>

定型一文字空けのバリエーション

5・7・□・5・7・7 冒頭の12音で何かを宣言するスタイル。

 

さかさまのつぶやきを見た 鳥かごのようなあかるい教室ですね
5・7・□・5・7・7 (さかさま の)(つぶやき を)(み た)□(とりかご の ような)(あかる い)(きょうしつ)(です)(ね)
<さかさまのつぶやき><鳥かごのようなあかるい教室>

 

神さまを失いそうだ 水色の子供の嘘でさえも太陽
5・7・□・5・7・7 (かみさま を)(うしない そう だ)□(みずいろ の)(こども の)(うそ でさえ も)(たいよう)
<水色の子供の嘘>

 

草原のようだった風 完璧な波になったら空の鳥かご
5・7・□・5・7・7 (そうげん の)(ようだ った)(かぜ)□(かんぺき な)(なみ に)(なった ら)(から の)(とりかご)
<草原のようだった風>

 

退屈なはじまりの死よ 人々になればねじれた五線譜のまま
5・7・□・5・7・7 (たいくつ な)(はじまり の)(し)(よ)□(ひとびと に)(なれば)(ねじれ た)(ごせんふ の)(まま)
<はじまりの死><ねじれた五線譜>

 

鳥かごにしたがいなさい 退屈な指紋の歌を守る結晶
5・7・□・5・7・7 (とりかご に)(したが い な さい)□(たいくつ な)(しもん の)(うた を)(まも る)(けっしょう)
<退屈な指紋の歌>

 

鳥かごに引きこまれそう あたらしいナイフの猫を捨てて神さま
5・7・□・5・7・7 (とりかご に)(ひきこまれ そう)□(あたらし い)(ないふ の)(ねこ を)(すて て)(かみさま)
<あたらしいナイフの猫>

 

情熱のひかりでしょうか 街じゅうが呪いの過去をおそれてナイフ
5・7・□・5・7・7 (じょうねつ の)(ひかり で)(しょう か)□(まちじゅう が)(のろい の)(かこ を)(おそれ て)(ないふ)
<情熱のひかり><呪いの過去>

破調

句跨りまたは句の分断による破調

5音を 2+3 や、7音を 4+3に分かれる。そこにキレがくることが多い。

 

ふわふわのどこかの傘のかたむきがほしくて白い体を憂う
5・7・5・[4/3]・7  (ふわふわ の)(どこか の)(傘 の)(かたむき が)(ほしく て)/(しろい)(からだ を)(うれ う)
<ふわふわのどこかの傘のかたむき>

 

やわらかな初恋を知るつまさきを殺し見知らぬ火曜日でしょう?
5・7・5・[3/4]・7? (やわらか な)(はつこい を しる)(つまさき を)(ころ し)/(みしらぬ)(かようび)(で しょう?) 
<やわらかな初恋><見知らぬ火曜日>

 

初恋に追われてさめた恋人を嫌う無限の教室ですか
5・7・5・(3/4)・7 (はつこい に)(おわれ て)(さめ た)(こいびと を)(きら う)/(むげん の)(きょうしつ)(です)(か)
<無限の教室>

 

臨月の空白のまま嘘つきを憂う見知らぬ嘘つきよりも
5・7/5・[3/4]・7 (りんげつ の)(くうはく の まま)/(うそつき を)(うれ う)/(みしら ぬ)(うそつき)(より)(も)
<臨月の空白><見知らぬ嘘つき>

 

ぶらんこのどこかに走る残像の先にどこかの永遠の日だ
5・7・5・[3/4]・7 (ぶらんこ の)(どこか に)(はし る)(ざんぞう の)(さき に)/(どこか の)(えいえん の ひ)(だ)
<ぶらんこのどこかに走る残像><どこかの永遠の日>

 

天上の視線に託す君だけの楽譜の午後が好きです 五月
5・7/5・7・[4・□・3] (てんじょう の)(しせん に)(たく す)/(きみ)(だけ の)(がくふ の)(ごご が)(すき)(です)□(ごがつ)
<天上の視線><君だけの楽譜の午後>

 

肉体という名の浮かぶ嘘つきに託すやさしい失敗だろう
5・7・5・[3/4]・7 (にくたい と)(いう)(な の)(うか ぶ)(うそつき に)(たく す)/(やさしい)(しっぱい)(だ)(ろう)
<やさしい失敗>

 

情熱のひ弱な闇のたましいという名の白い四月のあとで
5・7・5・[4/3]・7 (じょうねつ の)(ひよわ な)(やみ の)(たましい)(という)(な の)(しろ い)(しがつ の)(あと で)

 

たましいをのぞきこんだら生真面目な少女の母を殺し結末
5・7/5・7・[3/4] (たましい を)(のぞき)(こんだ ら)/(きまじめ な)(しょうじょ の)(はは を)(ころ し)/(けつまつ)
<生真面目な少女の母>

 

字余り

あの夏の休み時間よりあたたかな青みがかった母が好きです
5・8・5・7・7 (あの なつ の)(やすみじかん より)(あたたか な)(あおみ がかった)(はは が)(すき)(です)
<あの夏の休み時間よりあたたかな青みがかった母>

その他

かたむきを見ています 嘘 動かない恋が広がる風のゆりかご
5・[5・□・2]・□・5・7・7(かたむき を)(みて)(い ます)□(うそ)□(うごかな い)(こい が)(ひろ が る(かぜ の)(ゆりかご)
<動かない恋が広がる風のゆりかご>

 

ふわふわの流行り言葉から飛び出した雨のナイフは見たくない 街
5・8・5/7・[5・□・2] (ふわふわ の)(はやりことば から)(とびだし た)/(あめ の)(ナイフ は)(みたく ない)□(まち)
<ふわふわの流行り言葉><雨のナイフ>

おわりに

 わたしは、と文を書き始めるとき、わたしはすでに「短歌」を書くこととは全く別の言葉を用いているのだと実感する。事物に「詩」が現れていることを書きとめる道具として言葉を脱色して用いる素振りが身についてしまっているためだ。

 誤解をおそれずに、そして自らもカン違いしないようにとの自戒を込めたうえで、いうならば、短歌とはレトリックである。それは言葉を荘厳することによって詩を表す形式である。俳句はそれとは逆のやりかたで詩を表す。

<>内の形容された名詞節、のような表現を培っていかねばならない。

 また、限られた語彙をやりくりすることによって、真実を言い当てようとする営みと、その到達度は、やはり佐藤優樹さんの話法 に通ずるところがあると思えてならない。

 わたしは、手軽に既製品を選びすぎている。品揃えが豊富だからといって、吊るしがそのまま身に沿うなどいうことは、絶対にない。言葉とは(知覚の表現媒体とは、といってもいい)、すべて汎用的なものなのだから、それをそのまま用いることで、単独的な何かを簡単に示せるはずはないのだ。なぜなら、そのような詩は、基本的に表現不可能なものなのであり、それが露呈する瞬間を「奇跡」と呼ぶからである。それは、常に露呈している。だがそれに気付けるかどうか、それを表現しえるかどうかは、まったく個人の営みにかかっていると思う。

何かを言おうとするのではなく、何かを伝えようとするのでもない。とにかく、五つの詩を書くのだ、と思うことです。
 何となく説明的になっている場合が多いようです。調べを整えて、三十一音の詩、五連を綴ってみることです。そしてひとりよがりにならないで、とに角、意味を通す工夫をしてみてください。そのように心かけるだけでかなり質が高まってくるはずです。

島田修二「言葉へのあこがれを持つ」より

 

 

mochizuki.hatenablog.jp

おまけ

2021年1月30日の夕方に自動生成した短歌を記載します。

すべて、自働短歌生成装置「犬猿」星野しずるさん作です。

階段を失い雨の肉体は生命力の地層の底で

六月でさえも真冬の八月は機械じかけの街並みになれ

街じゅうの花になるまで朝焼けは深紅の国を眺めていたら

うつくしい愛を知らない嘘つきは静かな愛に嫌われている

金色のメールの嘘の向こうから鏡の先に見知らぬ手紙

街じゅうの後ろ姿を待つ夜のゆれる男を見るときの傷

真実をあきらめて影 街じゅうの恋を失い秋のカルピス

永遠の羊の下に真っ暗なみにくい歌を集めたら謎

謎みたい 秋の予言を待つ夜の死者の遊びを失いそうだ

ちぐはぐな吐息のようなあたらしい五月の歌という名の女神

いじわるなふたりの花から飛び出したうねりのためにかすかな体

空白のごとく砂漠のうつろいになるまで風のつぶやきよりも

絶望を集めたら波 君だけの国がほしくて白い思春期

走り去る半透明の犬の中 天気予報に封印された

五線譜がいっぱい 夜の爆発はたそがれどきの男を忘れ

漆黒の何も言わない音の中 パラドックスに慣れてしまって

漆黒の官能的な音がない人差し指を見つめ続ける

ささくれに似ている空の失敗のあとでかすかな手ざわりみたい

ありふれた運命でした 結晶をなぞる深紅のまどろみでした

にぎやかなすべてを守る生真面目な時間の罪を探した記憶

ともしびを愛し続ける退屈な涙の闇を憂う風景tw

ゆらめきでしょうか 真冬の沈黙は十年前の音楽のまま

夢のない犬をおそれてつまさきはどこかの家であるかのような

ゆりかごを愛した雨のともしびは入道雲の吐息にみえる

にぎやかな小学生を映し出す銀のうねりを見た朝に花

夢が好き 朝の写真にあこがれる夢の女を奪ってしまう

水色の恋のあいだにささくれは深紅の犬であるかのような

火曜日のそばでやつれたほほえみは半透明の週末となるtw

ぶらんこをなぞる誰かの五線譜を失いゆれる過ちとなる

まぶしげな水族館が好きだった百年前の罪がほしくて

天上の予言の罪を映し出すらせんのそばで見えない女神

いらだちを調べれば音 臆病な愛が好きです ただの戦争

週末の底で嘆きを見るときの思い出せない僕のかなしみ

金色の詩人を守る真夜中の嘆きの午後が足りない日なた

かなしみに気づかずに歌 鬱病の謎が好きです 白い野良犬

初恋のどこかで笑う曲線は金環食の絵画になって

曲線を憂う男に隠された機械じかけの白い約束

おおげさな過去のひかりを見た朝に生命力はつめたい流れ

朝焼けを集めたら午後 にせものの猿に伝わる走る永遠

ちぐはぐなさみしい人の才能を数えて浮かぶ未来の下にtw

野良犬の中に恐怖の運命という名のただの八月を見る

永遠の悲鳴を見つめ真夜中の男の母に伝わる炎

肉体は流行り言葉の歌みたい 見えない影のはずだった風

おおげさな愛の世界のようだったあなた自身はどこかの指紋

幕切れのごとくかすかなつまさきは官能的な六月だから

幕切れのあいだに白いほほえみをなぞるやさしい階段なのだ

まなざしはパラドックスの日々ですか あかるい傷が知っている夢

街じゅうの風の女王を待つ夜のテトラポッドはかすかな香り

きえてゆく犬を待つ日のたましいは狂った街をおぼえていよう

思春期を守るメールが好きだった官能的な君の残像

意味のないナイフの過去を見た朝に写真とともにねじれた未来

まなざしに向かってゆれる草原の底でわたしの週末を見る

過ちを嫌う時間のぶらんこに似ている夏のカルピスじゃない

嘘つきを集めて浮かぶたましいのことを知らずにその先の日々

太陽はたそがれどきの愛みたい あなたの日々を映し出す日々

影を見た 銀の旅路が知っている風の心に封印された

臆病な白雪姫のようだった秋のカーブに気づかずに猿

嘘つきとともに短歌に教わった神経質な恋の階段