はじめに
ノートがある。自分以外には何の意味もないノートがある。後日、必ず(自分のために)役立つ資料となるノートの断片だが、いざそのとき、ノートのままでは閲覧性に難がある。なぜなら、可読性が著しく悪い文字を書いているから。
そこで、まとめておくことにする。ここ数か月の間に書き留めた断片だ。
いつか、役立つそのときのために。
1
小説は物語のパロディーとして単独的な余剰でありたいがためにどうしても自己言及が含まれ、当然にしてパラドックスを抱えるわけですが、そこにサビとエッジをきかせたいと念ずるわけです。筋なんて飾りです。偉い人にはそれが分からんのです。
2
差延とは、「共時存在的一」に分節を生じさせる「風」であり、「痕跡」とはその分節の痕跡に他ならず、アーラヤ識を構成する。(『痕跡と失われたもの』ジャック・デリダにおける過去の問題 桐谷慧)の1を読んだメモ
3
経時的世界とは分節による遅延(=疎外)という差異の関係性のみが存在する世界。そこでは共時的世界(「一」)は概念としてのみある。
この「一」を実在とするなら、経時制とは時間という方便(概念)によって顕れた「部分」でしかないが、顕れている、ということこそが重要だ。
私たちは、外界の諸感官へのファーストインパクトからすでに遅延しており、認知、認識の段階ではすでに周回遅れだ。この遅延は校正・校閲のために組み込まれた編集期間(機関)であり、存在を存在するために必要な疎外である。遅延なき認識を「悟り」と呼ぶ。
4
ことばを憶えていく過程で、ことば以前の頃のことは忘れてしまう、と読んだことがある。蛹はイモ虫だった記憶をもたないだろう。言語が無意識を構造化する過程とは、蛹のような状態なのか。
言語が我々を作っている。が、言語の外はある。
完全変態する昆虫などは、蛹をへて、青虫だったころとは完全に切断されている。蝶はアオムシであった記憶を持たない。まるで、蝶が生んだ卵にアオムシが寄生し、そのアオムシに蝶が寄生しているかのように。
人間の場合は、言語が寄生するのだ。言語を知ってからは、言語を知る以前とはまった切断されてしまう。脳が言語に寄生され、作り変えられるからだ。無意識が言語のように構造化される、とはこのことだ。そして、言語によって構造化された脳は、それ以前を認知することはできない。
だから、言語が問題なのである。それは、蝶に自分が青虫であったことを直視させ、今も青虫であること。そして青虫は蝶であることに自らの存在を捨てて存在することである。
5
人は無意識に思考する。
思考しようとしているときは「思考しようとしている」としか思考していない。よって人は思考するとき、意識は思考していないことがわかる。
6
刹那刹那は奇跡に満ちているのだけれど、脳が作り出す時間の流れのなかでは、それらは瞬時の明滅でしかなく、気付く事ができない
7
「はじめの一歩」という遊びのルールは、人は「業」に近づくことで生まれ、それから「煩悩」に「染まらぬ」よう、ぎりぎりまで「(宿)業」に近づいたところで、「因果」を「切って」彼岸へ走り、「解脱」へ向かうのだと考えると、つじつまがあう。
そのとき、煩悩に染まった(鬼につかまった)人も一緒に逃げられる。これは大乗仏教だ。
そして、誰も鬼につかまらない状態のまま鬼にタッチすれば、「苦」の縁起自体が止む。
8
言葉は無意識がかけるメガネ
9
多頭一体なのではない。一頭多体なのだ。そしてこの体とは頭足類の感受する腸であり、その腸こそが、この頭(脳)なのである。だから我々は、一頭多体を多頭一体と誤解しているのである。
多頭一尾は進化すると、超多頭一尾から、無頭一尾、そして無頭無尾に至る。
10
触れただけでは所有してはいない。人は触れることしかできず、しかも直接触れることはできない。所有するとは、好きな時、好きな所で、好きなだけ触れる権利を他者に保証されている状態でしかなく、所有者と所有物とは、実は触れ合ってさえいない。だから所有者は所有しない。
11
人は必ず、
(書いたことを)話す。(聞いたことを)話す。
( )内の行為は、脳内で行われる。
その曖昧な筆跡は誰のものか。
その曖昧な声紋は誰のものか。
12
「物」に依って考えるしかない。「物」を離れて「存在」はない。「空」も具象である。「この世」が抽象であるのと同じように。
13
存在を確率分布として捉えるとしても、その濃淡の違いの理由をつきとめなければならない。場にあるのか、粒子にあるのか、波にあるのか。だが実はそれは、どうでもいい。
14
(…)世界はそれ自身の拒絶である。世界の拒絶が世界である。
『触覚、』ジャック・デリダ p.111
15
音楽は透明のゆえに美しい
ポエジーは反射のゆえに美しい
ポール・ヴァレリー
言語に汚染されずに伝わるから。
言語を多角結晶として乱反射させることで「原ー文法」を離れることができるから。
おわりに
これがどのようなものにまとまるものか、いまは何も分からない。