第一 もろもろの精神作用の協同
ミリンダ王(以下ミ) なんか、これまで色々と「分割」して答えてくれてたけどさ、実際のところ、どうなの?
ナーガセーナ(以下ナ) できない相談だね。
ミ じゃ、譬えてみせてもらおうかな
ナ 秘伝のスープの複雑な味を、塩っぱい、苦い、渋い、甘い、に分けて味わうことなんてできると思う?
ミ 渾然一体となった中にあるからこそ、それぞれが引き立つんじゃないか。
ナ そういうことよ。でさ、
ナ あなた、見ただけで「塩」ってわかる人?
ミ 分かるさ。
ナ ブッブー。ただ、白いことが分かるってだけです。では第二問。
ナ 舌なら、分かるかな?
ミ 分かるさ。
ナ そのとおり。塩は舌で、みんな、分かるよね。
ミ おや。塩は舌さえあればみんな分かるとおっしゃる?
ナ そうですよ。
ミ そんなら、わざわざ牛を重い思いをさせて塩を運ばなくったって、「塩っぱさ」だけを運べばいいんじゃないの?
ナ でも、塩と塩っぱさとは、分けられないから… 「塩」として「塩っぱさ」と「重さ」が合体しているわけだけど、もともとは、別のものなんだよね。じゃ 第三問。塩は秤で量れるでしょーか?
ミ 量れるに決まってんじゃん。
ナ ブッブー。秤で量れるのは、「塩の重さ」であって、「塩」ではありませんー。
ミ 面倒くせぇなぁー
第二 統覚作用と自然法則の問題
ミ 五感って、別々の業(ゴウ)によって生じたもの?
ナ そう。異なった業によるんだな、これが。
ミ 譬えてみそ。
ナ どうでしょう。同じ田に五種類の種を播いたら…
ミ 五種類の果実がなるわな。
ナ ね
ミ ん
第三 人格の平等と不平等
ミ 人はなぜ、平等じゃないんだろう… 寿命、財産、家柄、外観、知能とか。
ナ 逆に聞くけど、樹木はなんでみんな同じじゃないんだと思う?
ミ そりゃ、種が違うからな。
ナ そう。種は業(ごう)なのですよ。
第四 修行の時機
ミ 君たち、「この苦がなくなって、他の苦が生じませんように」って、言うじゃなぁ~い?
ナ う、うん。それが出家の目的だから。
ミ それって、だいぶ、先回りしすぎてるってとこない? どっちかっていうと、いいタイミングで、えいって取り掛かれば無駄がないっていうか。
ナ 泥縄じゃだめなんだよ。腹減ったとか、のど渇いたとか。そうなってからじゃ、もう、遅いの。間に合わないの…
第五 宗教神話に対する批判 ―〈宿〉業の存在の証明をめぐって
ミ 地獄の火はとても熱くて、自然の火では焼けない石が、地獄の火では「秒」で溶ける。で、地獄生まれ地獄育ちのやつは、その火に焼かれても焼けない、とかさぁ。信じられないな。
ナ 石とか食う生き物がいるでしょ?
ミ ああ。いるよ。
ナ そいつらって、石だって消化するじゃんか。
ミ そうだよ。
ナ なのに、やつらの身体とか、胎児とか、溶ける?
ミ 溶けるわけないじゃんか。
ナ な~んでか?
ミ 〈宿〉業の制約だな。
ナ そ。あなたがたが肉を食っても身体が溶けないのも、〈宿〉業の制約なのですよ。どんな存在でも、罪業が消滅しなければ、死は訪れないものです。
第六 自然界にありえないもの ―仏教徒の宇宙構造説について
ミ 大地は水の上にあって、水は風の上にあって、風は虚空の上にある、だなんて信じないもん!
ナ (でかいビーカーに水を満たして、官製はがきで蓋をしたものを、ひっくりかえして、ゆっくりと、はがきを抑える手を離す)ハイッ!
ミ (拍手)
第七 究極の理想の境地 ―涅槃(ねはん)は止滅か?
ミ ねはんって、all over なの?
ナ そう。止滅ね。
ミ どうしてそう言うの?
ナ 教えを学べば、存在することの、喜びも苦しみも次々に止んでいって、全部が止まって、滅びるからさ。
ミ 分かりやすいね。
第八 すべての人は涅槃(ねはん)を得るか?
ミ で、みんなが涅槃を得るのかな?
ナ みんなってわけじゃないけど。やるべきことをやってる人にはね。
第九 涅槃(ねはん)の安楽をいかに知るか?
ミ 涅槃(ねはん)を得ていない人は、涅槃(ねはん)は安楽だって、知ってるの?
ナ そ。知ってるよ。
ミ どうして、知るのさ?
ナ あなた、手足を切られるのが苦だって知ってるでしょ?
ミ もちろんだよ。
ナ あなたは、手足を切られたことがないのに、どうして、知ってるの?
ミ 手足を切る刑に立ち会ったとき、あいつら悲鳴をあげていたからなぁ。
ナ それと同じだよ。経験者の声を聞いて、みんなは知るのさ。
以上