望月の蠱惑

enchantMOONに魅了されたので、先人の功績を辿って、自分も月へ到達したい。

大悲なきfMRI ― 「脳」を変える「心」 レビュー

『「脳」を変える「心」』を変える「本」

読んだのでまとめておきます

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悪夢再び

―まずは苦言から

 以前レビューした、『心が脳を変える』は、ジェフリーMシュワーツ氏の実験や調査内容、意見が書かれていました。その共同著者はシャロン・ペグリー氏で、サイエンスライターという肩書きでした。

 この本が、私にとっては残念なものだったことは、前に書きました。

『心が脳を変える』という本を怨嗟しつつ如来蔵に思いをはせる - 望月の蠱惑

 前回の本(『心が脳を変える』)の、読みにくさは、どこから来たのか?

 読みにくさの原因が、著作者なのか、共同執筆者なのか、それとも訳者なのか。今回の本を読んで分った気がします。

 問題は、シャロン・ペグリー氏だったようです。今回の本も前回と同様、非常に混乱しやすい文章や、重複がいたるところに出てくるからです。茂木健一郎氏は専門職だし、世事にも長けていらっしゃると思われるので、これほど読みにくい文章を書くとは思えません。

さらに奇妙なこと 

 そして奇妙に感じられたのは、前回の本の「節」や「内容」が複数個所、そのまま今回の本にも載っていることです。前回の本での主要な実験と結果、調査内容なども含まれており、前回の著作者であるジェフリーMシュワーツさんとの権利関係は大丈夫なんだろうか? といらん心配をしてしまったり、もともとジェフリーMシュワーツさんは、執筆をしていなかったのかもと、かんぐってしまうほどです。

こんな読み方も

 この同じ部分を比べることで、茂木健一郎氏の邦訳と前回の本の吉田利子氏の翻訳との差がよく分りました。

対話…

期待大だった 

 今回の『「心」が「脳」を変える』こそ、発売の宣伝を見たときに「読みたい!」と思ったものでした。ダライ・ラマ14世さんが、脳の研究をしている人達と対話をする、という宣伝文句を見たからです。(それが、哲学者とか心理学者とかだと、ちょっとがっかりしますが……)

人は分かり合えるのでしょう?

 瞑想する者の脳は、ある方向に究極的に訓練された脳ではないでしょうか。
 シリアル・キラーたちの脳、各種の精神病に分類される方々の脳とは異なる「自発的な訓練によって培われた脳」です。研究対象としないほうがおかしいではないですか。

 しかし、こうした研究は、近年ようやく行われるようになったばかりなのだそうです。科学は、瞑想を宗教詐欺ぐらいにしか考えてこなかったし、
瞑想を実践している者達にとって、その効果は、非エレガントな現代電子機器などによって裏づけされる必要など無いほど、自明のことでした。

 この両者が、ダライ・ラマ14世さんの仲立ちによって、歩み寄った成果が今回の本にまとめられています。

全部出して

 定期的に、非公開でダライ・ラマ14世さんと、科学・医学・哲学等の分野のエキスパート達との、座談会(それは、ダライ・ラマ14世さんへのプレゼンテーションと自由な質疑応答という形式をとっている)が行われており、この本はその第何回目かの様子をレポートしたものです。この他の回について、日本語訳されているものが二冊くらい、アメリカの大学の出版社から数回分、ドイツの雑誌の特集記事が一つ、HPにいくつか、といった風に、報告されているもようですが、全部邦訳してもらいたいものです。

ダライ・ラマ14世さんの求めるものは

 事実による検証

ブッダさんは、自らの言ったことや実践について、「そのまま信奉するのではなく、常に疑い検証し、その結果真実だと信じられるもののみを信じなさい」とおっしゃいました。
 ダライ・ラマ14世さんもまた、現代科学によって仏教の教えを検証する立場をとっています。
 無論、科学万能主義ではありません。ダライ・ラマ14世さんにとって、十分に納得のいく結果であり、それが仏教の教えとあわないのであれば、教えの方を変えていくし、十分に納得ができない結果であれば、さらなる科学の検証を待つ。という姿勢です。

 定期的な座談会が行われているのも、専門の研究機関を持っているのも、「仏教」というものを、「科学」などによって検証することが、目的の一つとなっています。

厳密さ

 それだけに、ダライ・ラマ14世さんは、科学に厳密さを求めます。一例として、面倒見の良いマウスの話がありました。要約すると以下のような内容です。

 子マウスを、念入りになめたり、撫でたり、抱きかかえたりする時間が長い母マウスに育てられると、子マウスのストレス耐性が高くなり、好奇心も旺盛となる。これは、脳内のストレスに関する受容体の量から説明がつく。
 この傾向は母から子へと受け継がれる。面倒見の悪い母マウスに育てられた子マウスは面倒見の悪い母マウスになる。だが、これが遺伝的要因でない証拠として、面倒見の悪い母マウスから生まれた子マウスを、面倒見のよい母マウスに育てさせると、面倒見のよい母マウスになる。

 この結果を聞いたダライ・ラマ14世さんは二つ質問をしました。

① それは、純粋に母親の態度によるものであるのか。唾液などに、そのような変化を与える成分が含まれているわけではないのか

② 母マウスが子マウスの態度によって変わるとするなら、面倒見のよい母マウスと同じように、なめたり、擦ったり、抱いたりする機械によって育てた場合は、どのような結果が出るのか

実験の検証として、的確な意見だと思います。①については、科学的に否定されていますが、②については検証されていませんでした。

なぜか、ではなく何が起きているのか

 科学は「脳の可塑性」に主眼を置いて研究をしているようです。その中で、最も問題となるのは、「物質ではない思い(心)が、なぜ物質である「脳」を変えうるのか。一体、何が作用しているのか。なぜ、心が脳を変えられるのか」でした。

 「何が作用しているのか」については、保留事項となったようです。

 瞑想者にとっては「何故」は問題ではありませんでした。実践者としては、何故そうなるのか、については、結果が表していました。ダライ・ラマ14世さんが知りたいのは、多分、「瞑想によって脳内に何が起きているのか」なのです。共感が増し、他人の苦しみを感じやすくなり、救いたいと強く思い、そのための計画を始め、それらによって多幸感を得る。その時、脳内ではどのような変化がみとめられるのか。つまり、「単なる気のせい」ではない、科学的に実証可能な状態の変化がみとめられるのかどうか。なのです。

慈悲そして大悲へ

心の平安を伝えるために

 ダライ・ラマ14世さんは、世界人類の平和を願います。慈悲に満ちた世界の実現を願います。それらは一人一人の意識によって十分可能なことなのです。この一人一人に、心の平安をもたらすための方法を、ダライ・ラマ14世さんは求めているように感じました。

一時間目 慈悲の瞑想

 学校のカリキュラムに、「正しい瞑想」を組み込むことができれば、共感する脳をはぐくむことができるかもしれません。そのとき、科学技術は、メディテーションメソッドとして何らかの補助ができるかもしれません。無論、その技術は真逆に使うことも可能でしょう。薬物投与なども、起こるかもしれません。

 しかし、瞑想の達人達は、機器も薬物も使わず、明らかに常人とは異なる脳波を出し、異なる部位を活性化させることができます。

達人だから…もともとそういう素質があったから…

 ダライ・ラマ14世さんの願いを実現するためには、こういう疑念、しり込みする気持ちを払拭できるだけの材料が必要なのではないでしょうか。現代の「科学」がもつ信憑性を借りて、仏教の叡智を多くの人々に説くこと。そのための協力ではないのかと思いました。

さいごに

 宣伝文の「ダライ・ラマ14世と脳学者達との対話」から、描いていた内容とは全く違っていたのですが、ダライ・ラマ14世さんの言葉があっただけで満足します。

 そして、今回の文章、冗長で重複が多く、くどくて読みにくいと思いませんか?こんな感じです。

私見

 私は、科学万能主義者ではありませんし、現実至上主義者でもありません。科学にはこの宇宙世界をきっちりと説明できる理論と証拠を組み立て集めてもらえればいいのです。徹底的に、厳密に、行ってもらいたいのです。

 そして、宗教の教義等において変革が必要な部分とは、まさに「この宇宙の世界」に迎合している部分のみだと思います。仏教における「世俗諦」の部分のみです。

科学が到達しえない部分に科学知識を適用することこそ、非科学的ですから。