アイコ十六歳
これまでで、最も好きな映画だ。
同時代性という贔屓目を差し引いても、30年以上にわたって、No.1であり続けるというのは、かなりのものではないか。その理由の大部分は、富田靖子さん演じる三田アイコさんの魅力によるものだ。彼女が選ばれたという事実に、感謝する。
部活動の位置づけ
その他の理由について、今朝、思いついたことがあった。
「女子高校生青春映画における『部活動』の位置づけ」について、である。
帰宅部
古屋兎丸さんが「ショートカッツ」で描いていらっしゃるように、世間一般の女子高校生のイメージとは「帰宅部」だ。
性の開放
帰宅部の彼女たちの主要関心事とされたのは、「恋愛・性」だった。
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テレビでは、「まいどお騒がせします」「夏・体験物語」「湘南女子寮物語」などが立て続けに放送されていた。
不安の解消
また、どこにも所属しない彼女たちは、存在の不安定さを増幅させ、居場所を求めて浮遊する。
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時として、その日常は彼女たちを、事件へ巻き込んだり、
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家族もろとも浮遊したりする。
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援助交際へ
この流れは、援助交際へと連なっていく。
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非日常性
漠然とした不安に満ちた日常を脱するために、祝祭(非日常性)の導入も試みられる。
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(以下、中学生主人公なので参考として)
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タナトス
「不安」は、満たされない「孤独感」を招く。それは「死」のイメージに直結する。
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健全な部活・部活は健全
部活映画
だから、「部活」に打ち込め、とばかり「部活」映画が増えている。
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「部活」での成長、「大会」での成績。それさえよければ「大団円」、なんて単純で、紋切り型なストーリー展開ばかり。
弓道
1983年封切りの「アイコ十六歳」と「時をかける少女」は共に主人公が「弓道部」だ。凛とした強さを求める大人の事情なのか、女子高校生も大和撫子のイメージに憧れていたのかは不明だ。いずれにせよ、どちらも「映画」を展開していくための原動力ではない。
もちろん、大会での優勝をゴールとするわけではない。
部活を含めて日常があり、その日常を表現するのに「部活」が役立っているのであれば、よいのだと思う。
私は「部活映画」がみたいのではなく「青春(学生の日常全体性)映画」が見たいのだから。
日常全体性
そのように「日常全体性」を表現した良作として
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がある。
これは私が二番目に好きな映画だ。
ここに若干の非日常性を加えたものとして
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がある。
そして、非日常性の中でも、神話的「死」と「再生」を導入したものとして、
がある。
これらに共通するのは「日常における『死』(「雨がふる」ように「人が死ぬ」)」感覚の弱さである。そこでの「死」は「別れの香り」程に仄めかされるのみである。
生きた心地――ドゥルーズ『意味の論理学』第22セリーに関する覚え書き(1) - l'Odradéque bavard(お喋りなオドラデク)
結論 死への眼差しを忘れず生命を謳歌する使命
今朝気づいたこととは、こういったことだ。
アイコ十六歳は「部活」だけの映画ではなく、「女」性 だけの映画でもない。
「人間」として生きている。という事実と向き合っているのが、16歳で弓道部の三田アイコさんだった、ということなのだ。
大量の「死」のイメージの中で、消えてしまいそうなほどか弱い「生命・誕生」
女子高校生三田アイコさんは、屈託無く振舞いながらも、「死」の気配にあまりにも敏感だ。無防備な彼女の微笑みに諦観が宿っていたのは、「人が生まれて死ぬ存在であること」をありのまま受け入れているからであったように思う。だから、「生」を愛おしく思い、より良く生きようとしていたのである。
「これで大丈夫」などという着地点はどこにもにない。
「それでも、生きていることが素晴らしいのだ」
アイコ十六歳とはそういう映画に仕上がっている。
だから、この映画は、今後もナンバーワンであり続けるだろう。