望月の蠱惑

enchantMOONに魅了されたので、先人の功績を辿って、自分も月へ到達したい。

エーコさん、コロッケさんと、私

軽妙洒脱なつまらなさ

 ウンベルト・エーコ さん 逝去。(1)

薔薇の名前(2)』『フーコーの振り子(3)』のあの、重層晦渋で、ディレッタントな文体でおなじみの。とても勉強になる本だった。

 記号を自在に操るエーコさんによる古今の文学パスティーシュ、との紹介に魅かれて、近所の図書館にあった『ウンベルト・エーコの文体練習(4)』読んだら、くだらなくてつまらない。

 ロリータを100歳の老婆に移し変えるとか、陳腐すぎる。マスメディアの無い時代の様々な事象を、ジャーナリスティックに馬鹿にする感じ。小難しい言葉を多様する文体を茶化す茶化す。「現代」「知識」という比類なきアドバンテージのゆるぎない足場から、俎上の作品と共に、現在を批判するという姿勢が、鼻につく。ユーモアではなくて、イロニー? 意地悪さが勝って、後味の悪さだけが残る。

 リスペクトという謙虚

 『永遠のジャックアンドベティー(5)』『主な登場人物(5)』の清水義範(5)さんの方が、断然素晴らしいと思う。おもしろいし、くだらなくない。

 エーコさんからは、原作にたいするリスペクトが感じられない。記号学者(6)だから、テクスト(7)の扱い慣れてしまったのかもしれない。やしろ優(8)さんによる芦田愛菜(9)さんの「ものまね」のように。

 ウンベルト・エーコさんに、リスペクトの心があれば、『文体練習』はコロッケ(10)さんの「エンターテイメント」の境地にまで達したかもしれない。清水義範さんのパスティーシュは、さしずめ、コージー富田(11)さんや、原口あきまさ(12)さん、などの楽しさに似ているのかもしれない。(切り口、見せ方、の工夫だ)。その間の、ころっけさん寄りに清水あきら(13)さんがいらっしゃる。そして、栗田貫一(14)さんのものまねに悪意があるとは言わない。しかし、栗田さんからは「我愛」を感じてしまって、素直に笑えない。

コピー系の限界

  そして、「歌ウマ」系の「ものまね」には、存在理由がないと、私は思っている。ボーカロイドが運営から本物認定されてしまう(15)世の中だ。

 本人になることがゴールなら、すでに本人がいるのだから、競技自体が終了している(16)。本人より上手になったって、物真似の人はその人の廉価版でしかいられない。ものまねに必要なのは、+αなのだから(17)。

舌が鈍いのね、私の

  「ウンベルト・エーコさんの『文体練習』の凄さを感受できないのは、そちらの知識不足だ!」との指摘は、甘んじて受ける。「アクロバット」「抱腹絶倒」とか「原典探しに興じる」とか、「ひきつけられて止まない」とか、「きっと何かあるはずだ」との意見も散見する(18)。

 私には、複雑すぎる味だった。ということだ。

 

最後に、偉そうな講釈を垂れた私の文体模写をまとめてあげておく

 巻末付録一 著者之序(の口)

 この小説の慣性(←ママ)によって、それまで発表した幾つかの作品は、いずれも路傍の雑草のごとく、哀れ果敢ないものになってしまった。のみならず、本編がこちらに連載された暁には、褒められるにも、誹られるにも、悉く最大級の無視を以ってせられるやもしれず。事実、その危惧の中で、私は散々に揉み抜かれたのである。恐らく、ネット上に素人作家が出現して以来、かくも私ほど無視された作家も、例しなかったことであろう。が、また一面には、狂熱的に指示してくれる読者も、二三あって、殊に、平素私になど見向きもせぬと思われるような方面から、霰々たる激励の声を聴いたのも、空耳であった。
 しかし、毫も私は、この怖ろしい戦場を見捨てて、退却する気にはなれなかったのだが、そうして回を重ねていくうちに、案外、生え抜きの小説読者の間にも、私の読者が少ないのを知って、心強くなった。ともあれ、この一遍は、いろいろな意味からして、私にとると、貧しい知識の集積とも云えるのである。
 さて、此処で一言述べておきたいのは、これまでも頻繁に問われた事も無かった事だが、この長編を編み上げるに就いて、そもそも着想を何から得たか-という事である。勿論主題はゲーテの「ファウスト」であるはずはないが、大体私の奇癖として、なにか一つでも視覚的な情景があると、書き出しや結末が、労せずに浮かんで来るのだ。それが本編では、どこにつかわれるかは未定の、-すなわち、生放送中のマイスタ前を訪れる場面にあたるのである。それ故、坩堝撫子の着想を「ズームイン朝」から得たといっても過言では無いと思う。(以下省略)
 つまり、全てが剽窃、全てが引用、全てが本歌取り。駄洒落と誤魔化しで糊塗した行き当たりばったりの代物で、どこまで書けば終いなのかは、作者自身にも分からない。ネタが尽きるまで、普段は禁じている観念連想を解き放ち、物語と小説の狭間で勝ったり、負けたりしながら、楽しむゲームの記録なのである。
 書き手としてこんなに楽しい遊びはない。良いゲームを期待していただきたい。さらに読者諸君にも、参加していただく余地は多数あるはずである。これはバトルロイヤルなのだから。しかし、ご注意あれ。倒すべきは作者ではない。敵は使徒か、あるいはDADARN(19)の如き変幻自在の化け物である。きたれ戦場へ。共に戦おう。
          平成13年6月  どうじんなでしこ こみやともゆき

 

付録 その2
巻頭句
徒然なるままにその日暮らし
姿見に向かいて心に映り行く由無し事を
そこはかとなく書きなぐれば
おかしゅうこそ
もの狂おしけれ

 

付録  「自由投稿」 「熊桜メモ」
  これは、さかしまな叔父の日記の中ほどにはさんであった紙片です。叔父は自宅にセコムを入れようとしていましたが、リストラされた家にセコムはどうだろうと二の足を踏んでいたんです。世間体ってやつですかねえ……

      「六波羅光寺町右入ル ペンネーム 瀬戸内少年若冲

 父はたらかず角に立つ。錠に鍵させば長すぎる。無理に回せば警報だ。とかく今夜は入りにくい。入りにくさが高じれば低いところを狙いたくなる。どこを狙っても入りにくいと悟った時、ガラス切りが生まれて、ピッキングが出来る。
 錠をかけたものは神でもなければ、鬼でもない。矢張り向こう三軒両隣にちらちらする唯の人である。唯の人がかけた錠のせいで入りにくいからとて、自宅に入る阿呆はあるまい。あれば、錠の無い家に入るばかりであるが、錠の無い家は錠のある家よりも財産が少なかろう。
 錠の無い家に財産が少なければ、入りにくいところをどれほどか、一発で、束の間の留守を、束の間の間でものにせねばならぬ。ここに空き巣という犯罪が出来て、ここに逃亡という使命が下る。あらゆる窃盗の士は、人の懐をあてにし、自分の暮らしを豊かにするが故に証社マンだ。
 入りにくき家から入りにくき煩いを引き抜いて、ありがたい金庫をまのあたりに写すのが下見であり図面である。あるは変装と訓練である。細かに云えば、盗らずともよい。ただ、まのあたりに見れば、そこに手が行き、欲も涌く。着想を紙には落とさぬ方が、いざというとき逃げられる。丹精すればノブに向かって塗抹せんでもシリンダーの溝型は自ずから心眼に映る。只、おのが入る家を、かく観じ見て、縦横八寸の懐に金銀パールの金庫内を残らず、手早く収めうれば足る。この故に、無声の家人には反抗なく、無職の我には石鹸なきも、かく人世を観じ得るの点において、かく煩悩を解脱するの点において、かく牢獄界に出入し得るの点において、又この不同不二のアリバイを立証しうるの点において、我利私欲の渇望を充足するの点において、千金の子よりも、万乗の君よりも、あらゆる俗界の兆児よりも幸福である。
 世に盗むこと二十年にして、盗むに甲斐ある世と知った。二十五年にして、明暗は表裏のごとしく、日のあたる所にはきっとサツが立つと悟った。三十の今日はこう思うている。喜びの深き時、いよいよ欲深く、楽しみ大いなる程、酒が進む。これを切り離そうとすると身がもてぬ。片付けようとすればあれが立たぬ。金こそが大事だ。大事なものが増えれば寝る間も楽しかろう。恋はうれしい。嬉しいが年が積もれば、何もせぬ昔がかえって恋しかろう。閣僚の足には数百万人を踏みつけている。背中には贈収賄利権損得がおぶさっている。うまい物も食わねば惜しい。少し食えば飽き足らぬ。存分に食えば、あとで胃もたれだ。・・・ (以下紛失)
同人坩堝撫子

 

習作「桐の花(北原白秋)による小栗虫太郎推理小説案」

(短歌後の番号は「桐の花」の順番)

「―フム『チョコレート嗅ぎて君待つ雪の夜は湯沸(サモワル)の湯気も静こころ   なし』(Ⅲ雪 八)とか言うぜ」 と、玉熊の質問を軽くいなした後で、「だから、極寒の内に衰弱した被害者に、居る筈の無い人間を感知させる道理は、湯沸(サモワル)へと帰納されるという訳じゃあないか」 と、その場限りの詭弁としか思われぬ発言をする。これには玉熊もあきれて、 「おいおい、いい加減現実社会へ帰還してはもらえないかね。大体、ヤカン一つで人間が拵えられるっていうんなら、即席ラアメンなんぞ数百年も昔から出来ていなけりゃ、十露盤に合いやしないだろうじゃないか」 と逆襲に転じた。だが、酉水は、「この際、瞬間乾燥技術を殺人に応用する方法のレクチュアは先のこととしてだね」 と、玉熊をあっさりやり込め、「つまりは『ああ冬の夜ひとり汝がたく暖炉(ストオブ)の静こころなき吐息おぼゆ』(同 八)となれば、殺害以前にもう一人、暖炉へ火を入れた人間がなきゃならない訳でね。おまけに二人は『雪の夜の赤きゐろりにすり寄りつ人妻とわれと何とすべけむ』(同 九)なんですからな」 と、あくまで『桐の花』に拘泥している。「だからと言って、悪夢の後の朝明に、『狂ほしき夜は明けにけり浅みどりキャベツ畑に雪は降りつつ』(同 十)では、あまりに単純すぎやしませんかね」 と、玉熊が、同じ『桐の花』から引用して言い負かそうと試みるも、 「いや、むしろ『雪ふるキャベツを切ると小男が段段畑をのぼりゆく見ゆ』(同 十)  の方でしょう」 と煙草の煙をプウプウ吐きながら澄ましている。「すると、君は、山狩りをしろと言うのかね!」 と玉熊が仰天すると酉水は、「出来有ればね。だが、手遅れかもしれぬ」 と一瞬鎮痛な面持ちを見せた。 「なにしろ、『わかき日は赤き胡椒の実のごとくかなしや雪にうづもれにけり』(同 十一)だからね。」 と言って、煙草を捨てた。 「不吉なことを言うね。」玉熊は百年も前の歌集が現代現実の殺人事件をそのまま描写するとい う異常に、背筋の凍る思いがしていた。だが、酉水はすぐにこれまでの 冷徹な眼と諧謔を湛えた唇を取り戻して、 「『つつましきひとりあるきのさみしさにあぜ菜の香すら知りそめしかな』(Ⅳ 早春 三)『あはれなるキツネノボタン春くれば水に馴れつつ物をこそおもへ』(同 三)か。誰か、この付近の地図を」 と、凍てつくガラスを振るわせるほどの声で命じ、卓上にバサリと地図 を広げ、 「猫柳、猫柳」 とつぶやきながら、コンパスや、細引き紐で、なにやら測定を始めた。ああ、この、遅い雪に閉じ込められた山の手の密室におこった一件の自 然死と思われた出来事を、酉水の超絶的頭脳は、百年の時を経た有名歌集 をもって読み解こうとしていた。玉熊は、ただ傍らに立ち尽くし、今では 完全に事件解明の原動力となった酉水の一挙手一投足を見守っている。

 やがて、糸巻きをコロコロと転がした酉水は、 「『細葱の光をかなしむと真昼しみらに子犬つるめる』(同七)と行こうか。」 と玉城の方を叩いた。玉熊は頷いて、警察犬の手配を済ませ、「さて、犬が来るまで間があるから、『ふくれたるあかき手を当てハシタメが泣ける厨に春は引かれり』 (同 八)とあるし、女中の話でも聞いてみようじゃあないか」 と、酉水に声をかけたが、酉水は 「その方面は君に任せるよ」 とそっけなく言って、傍らのソファーにどっかりと腰を下ろし、沈思黙考 に入ったのだった。【習作のみ】

◆じばくでんぱぶし より【怨み節】 作者:みやこたまち

この世に生きるものなら誰も  怨みを売買せにゃならぬ

「寝て醒めて 食べて出す間に 怨み買い」
「売りさばくつもりなくとも大特価」

ひとを怨むにゃ元手は要らぬ  怨みが生きる支えとなって  日がな一日妄想するのは あの手この手の復讐劇だよ  怨み晴らすは天下の大儀  死なばもろとも皿まで喰らい 生かさず殺さず苦痛を与え  のたうち回る相手を眺め  「大丈夫かい」と差しのべた手は  血で真っ赤だよ復讐鬼

「最高の復讐って何でしょう?」
「親友を裏切ること。愛さないまま添い遂げること。社会的にだけ殺すこと」
「復讐で、幸せになれますか?」
「復讐しないで幸せになれるのかね?」

相手が逃げる地の果てまでも  突き止め追いかけまた復讐し  それでも相手が死 なないように  塩を送って微笑返し  どうせ儚い命の限り  与えた痛苦の 悦びと  受けた痛苦の 苦しみを  思う存分堪能しつくし 寿命の尽きたその鬼の 死に水 取った人の手は  血で真っ赤だと伝え聞き  身を処し万事控えめに  呼吸も鼓動も ひっそりと  物音立てず暮らすうち  目眩耳鳴り息切れ動悸  関節痛に若白髪  復讐するは白髪鬼  四畳一間にひきこもり  与えたつもりで被って  気づかぬうち に衰弱死

大家が面倒臭がって 葬儀も出さず寺送り 寺でも万事面倒で  医師に告げずに 無縁墓  誰にも迷惑かけずに来たが  旅の終りは無縁墓  これでは悔やみきれまいと  死んでも死に切れないだろと 僅かな便りを伝手 として やってきたのはそれほどに  つきあいの無い無名の一人 「真面目な奴が報われぬ  そんな世界が悪いのだ  おまえの無念はきっちりと  俺が晴らしてくれようぞ」 菩提弔う両の手は  決意も固く結ばれて  血がポタポタと滴って  墓石を赤く染 め上げる  生者と死者の怨みなら  恐ろしいのはどちらでしょ  死者の怨みを受け継いだ  生者の怨みはどうでしょう  死んだあいつが浮かばれぬ 怨みを借りて復讐を  続ける意志は誰のもの  一つ積んでは奴のため  二つ積んでは奴のため  死んだ怨みに怨まれて  生きた心地のせぬうちに 目眩耳鳴り息切れ動悸  関節痛に若白髪  先から理由はわからない  生きてるだけで怨まれて  地位も名誉も地に堕ちた  そんな怨みに固まって  復讐するは白髪鬼  怨み買わずに生きるのが 所詮 叶わぬ世界なら  怨みを晴らす側になり  あらん限りの知恵絞り  相手の破滅を 生き甲斐に  晴らす怨みを太らせて  復讐の火に薪くべて 命をかけて地を駆ける  死者の怨みを受け継いで  死者に命を奉納し  そうして功徳をほどこした  つもりで死者を冒涜し  死んだ怨みに食い殺されて  本望だったか怨み節  回る因果の怨み節  怨むに足りる相手がいれば 生きる甲斐ある生なれど  得たいの知れぬ怨みを受けて 生きるはこの世の地獄なり  受けた怨みを怨んで怨み 晴らした怨みにまた怨まれて  怨みを形見に この世を去った  生きた証の怨み節  拾うあなたの怨み節 

  

(1)

www.afpbb.com

(2) 241夜『薔薇の名前』ウンベルト・エーコ|松岡正剛の千夜千冊

(3) 文芸評論家・加藤弘一の書評ブログ : 『フーコーの振り子』 エーコ (文春文庫)

(4) ウンベルト・エーコの文体練習【ウンベルト・エーコ】 | いぬ日記

(5)永遠のジャック&ベティ : 賢者がいるとすればこの人「清水義範」の小説ランキング30作品! - NAVER まとめ

(6) 初心者のための記号論

(7) テクスト論(てくすとろん)とは - コトバンク

(8) やしろ優オフィシャルブログ「やしろ優のえくぼ」Powered by Ameba

(9)

laughy.jp

(10)

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(11) コージー冨田 | トップ・カラー オフィシャルサイト★ものまね&お笑い★

(12) @原口あきまさの@あ's R

(13) 清水アキラオフィシャルブログ「清水アキラの言いたい放題っ」Powered by Ameba

(14) 栗田貫一のゴルフブログ クリカンのやっぱりゴルフ−GDO

(15)

www.itmedia.co.jp

(16) 伊集院光 芸能人選手権(01) 勝ち抜き森進一選手権 - YouTube

(17) 荒牧陽子、活動休止の理由は「ものまね地方営業」を拒否したから!? - エキサイトニュース(1/2)

(18) 『ウンベルト・エーコの文体練習』

(19) DADARN: とんねるず 「みなさんのおかげです」内の「近未来警察072」における、地球征服を目論む悪の組織の名称。