望月の蠱惑

enchantMOONに魅了されたので、先人の功績を辿って、自分も月へ到達したい。

北原白秋さんのオノマトペリスト ―短歌の部

前回ブログの続きです。

はじめに

NHK短歌 新版 作歌のヒント』永田和宏 NHK出版 の中の、「ヒント27」に、「エイッと、オノマトペ」という項があり、そこに「オノマトペといえば北原白秋」というような記述があり、

君かへす朝の舗石のさくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ ;の「さくさく」

きりはたりはたりちやうちやう血の色の棺衣織るとか悲しき機よ ;の「きりはたりはたりちやうちやう」

月夜よし二つ瓢の青瓢あらへうふらへと見つつおもしろ ;の「あらへうふらへ」

 

が引用されていた。

f:id:miyakotamachi:20210621203350j:plain

幸い、手元に『講談社 豪華版日本現代文学全集14 北原白秋 三木露風 日夏耿之介』があるので、ここから白秋さんのオノマトペを拾ってみた。

なお、本書収録作品は、一部抄録となっていることを予めお断りしておく。

北原白秋さんのオノマトペ ―短歌の部

短歌                
あかあかと枯草ぐるまゆるやかに夕日の野邊を軋むなりけり あかあか 雲母集抄 流離抄 三崎哀傷歌 枯草ぐるま      
赤赤と夕日廻れば一またぎ向うの小山を人跨ぐ見ゆ 赤赤 雲母集抄 臨界秋景 油壺晩景        
田舎道のぼりつめたるかなたより馬車あかあかとかがやきて来も あかあか 雲母集抄 閻魔の反射 田舎道        
曼殊沙華の花あかあかと咲くところ牛と人との影通りをる あかあか 雲母集抄 閻魔の反射 曼殊沙華抄        
道のべの馬糞(まぐそ)ひろひもあかあかと照らし出されつ秋風ふけば あかあか 雲母集抄 地面と野菜 昼休憩        
見桃寺冬さりくればあかあかと日にけに寂し夕焼けにつつ あかあか 雲母集抄 見桃寺抄 西日抄        
あかあかと鵞鳥(あひる)を置いてゆく草場かげの夏の日の戀 あかあか 桐の花 雨のあとさき Ⅰ雨のあとさき 十三      
あかあかと五重の塔に入り日さしかたかげの闇をちやるめらのゆく あかあか 桐の花 銀笛愛慕調 Ⅲ秋      
武蔵野のだんだん畑の唐辛子いまあかあかと刈り干しにけれ あかあか 桐の花 愁思五章 Ⅵ百舌の高音      
胸のくるしさ空地の落日(いりひ)あかあかとただかがやけり胸のくるさ あかあか 桐の花 哀傷篇 Ⅱ哀傷篇      
あかあかと十五夜の月隈なければ衣ぬぎすて水かぶるなり あかあか 雀の卵抄 輪廻転生 発心鈔 良夜 路次    
あかあかと蓮花(れんげ)描くとて描きゐたり我も蓮花と見てゐたりけり あかあか 雀の卵抄 雪の翅ばたき 貧者と糧 石版職工      
柔かき光の中にあをあをと脚ふるはして啼く蟲もあり あをあを 桐の花 愁思五章 Ⅵ百舌の高音      
いらいらと葱の畑をゆくときの心ぼそさや百舌啼きしきる いらいら 桐の花 愁思五章 Ⅵ百舌の高音      
咽喉ぼとけ母に剃らせてうつうつと眠りましたりこれや吾が父 うつうつ 雀の卵抄 雉子の尾 老いし父母 父の白髪      
うつらうつら海に舟こそ音すなれいかなる舟の通るなるらむ うつらうつら 雲母集抄 自然静観        
うらうらと二人さしより泣いてゐしその日をいまになすよしもがな うらうら 桐の花 白き露臺 Ⅳ女友どち      
城ケ島の女子(をなご)うららに裸となり見れば陰(ほと)出しよく寝たるかも うらら 雲母集抄 雲母集 城ケ島        
炎炎と入日目の前の大きなる静かなる帆に燃えつきにけり 炎炎 雲母集抄 山海経 海光        
かうかうと風吹きしく夕ぐれは金色の木木もあはれなるかな かうかう 雲母集抄 法悦三品 遠樹抄        
かさこそと蟹匍ひのぼる竹の縁(えん)すがすがと見つつ昼寝さめゐる かさこそ・すがすが 雀の卵抄 葛飾閑吟集 雨のころ 蟹と竹      
この夜ことに星きららかに麻布の室霜降り来らし声霧(き)らふなり きららか 雀の卵抄 山内の時雨 麻布十番 霜の夜ごゑ      
きりきりと切れし二の絃つぎ合せ締むるこころか空きのをはりに きりきり 桐の花 愁思五章 Ⅲ清元      
きりはたりはたりちやうちやう血の色の棺衣織るとか悲しき機よ きりはたりはたりちやうちやう 桐の花 銀笛愛慕調 Ⅱ夏      
鱶(ふかざめ)は大地の上は歩かねばそこにごろりところがりにけり ごろり 雲母集抄 新生 魚介三品        
春惜しむ我が方丈の闇にしてさうさうと群るる鼠暫あり さうさう 黒檜 瞳人語 鼠の春 春惜む      
監獄いでてぢつと顫へて噛む林檎さくさく身に染みわたる さくさく 桐の花 哀傷篇 Ⅱ哀傷篇 十五      
君かへす朝の舗石(しきいし)さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ さくさく 桐の花 春を待つ間 Ⅲ雪      
さびさびと時雨ふり来る笹の葉に消えゆく遠き日あしなりけり さびさび 雀の卵抄 時雨と霜 雀の宿      
君もなほ死なずありけむさめざめと夜の間に見えて涙を流す さめざめ 桐の花 哀傷篇 Ⅱ哀傷篇      
さんさんと海に抜手を切る男しまし目に見え昼はふかしも さんさん 雲母集抄 雲母集 遊ケ埼遊泳        
男子らは心しくしく墾畑(きりばた)の赤き胡椒を刈り干しつくす しくしhく 桐の花 愁思五章 Ⅵ百舌の高音      
かかる日の胸のいたみのしくしくと空に光りて雨ふるらむか しくしく 桐の花 愁思五章 Ⅰ秋のおとづれ      
バリカンに頭(かしら)あづけてしくしくとつるむ羽虫を見詰めてゐたり しくしく 桐の花 哀傷篇 Ⅱ哀傷篇      
春蝉の早や鳴きそむる我が山を向ひにもこの日じじと声立つ じじ 黒檜 黒檜 春蝉        
枯山(からやま)に雪しらしらと降れりとふ枯山にすらも人目遊ぶを しらしら 黒檜 短日童女 観雪        
夕日あかく馬のしりへの金網を透きてじりじり照りつけにけり じりじり 桐の花 哀傷篇 Ⅱ哀傷篇      
しんしんと寂しき心起こりたり山にゆかめとわれ山に来ぬ しんしん 雲母集抄 山海経 狐のかみそり        
しんしんと淵に童が声すなれ瞰下せば何もなかりけるかも しんしん 雲母集抄 雲母集 深淵        
しんしんと夕さりくれば城ケ島の魚籠(いけす)押し流し汐満ちきたる しんしん 雲母集抄 山海経 海峡の夕焼        
鼠子は後も見ざらしするすると柱に消えて夜寒なるなり するする 黒檜 短日童女 冬夜        
入日うくるだらだら坂のなかほどの釣鐘草の黄なるかがやき だらだら 桐の花 雨のあとさき Ⅰ雨のあとさき      
寂しさに赤き硝子を透かし見つちらちらと雪のふりしきる見ゆ ちらちら 桐の花 春を待つ間 Ⅲ雪      
ちりからと硝子問屋の燈籠の塵埃うごかし秋風の吹く ちりから 桐の花 初夏晩春 Ⅵ路上 初秋      
海雀つらつらあたまそろへたり光り消えたり漣見れば つらつら 雲母集抄 雲母集 崖の上の歓語        
来て見れば監獄署の裏に日は赤くテテツプツプと鳩の飛べるも テテツプツプ 桐の花 哀傷篇 Ⅳ哀傷終篇      
新春(にいはる)と今朝たてまつる豊御酒のとよとよとありてまたたのたのと とよとよ・たのたの 黒檜 瞳人語 年頭薄明吟        
ぬくぬくと双手(もろて)さし入れ別れゆくマフの毛いろの黒雪の日 ぬくぬく 桐の花 春を待つ間 Ⅲ雪      
水の面に光潜毬昼深しぬつと海亀息吹きにたり ぬつ 雲母集抄 新生 魚介三品        
紫の日傘さしか憂き人ののらりしやらりと歩む夕ぐれ のらりしやらり 桐の花 雨のあとさき Ⅰ雨のあとさき 十四      
のんのんと瞳の中に言ふ聴けば春昼(しゆんちう)にして花か咲きたる のんのん 黒檜 瞳人語 瞳人語        
ある時は獨行くとてはつたりと朱の断面に行き遇ひにたり はつたり 雲母集抄 三崎新居 ある時は        
昼渚人し見えねば大鴉はつたりと雌を壓(おさ)へぬるかも はつたり 雲母集抄 新生 大鴉        
日ざかりは巖を動かす海蛆(ふなむし)もぱつたりと息をひそめるかも ぱつたり 雲母集抄 新生 魚介三品        
はらはらと雀飛び来る木槿垣ふと見ればすずし白き花二つ はらはら 雀の卵抄 葛飾閑吟集 田園の立秋 木槿と雀      
風ひびく冬山岸にはららくは白樺の清き黄葉なりけり はららく 黒檜 黒檜 榛名湯澤行        
電線(はりがね)に鳶の子が啼き月の夜に赤い燈が点くぴいひよろろろよ ぴいひよろろろ 桐の花 哀傷篇 Ⅲ続哀傷篇      
北の峡(かひ)雲ひたひたと押しかぶしちかし紅葉も過ぎぬ ひたひた 黒檜 黒檜 榛名湯澤行        
ひとをどりひやるろと吹けば笛の音もひやるろふれうと鳴るがいとしさ ひやるろ・ひやるろふれう 桐の花 哀傷篇 Ⅳ哀傷終篇      
明笛(みんてき)はひやるろほろろと吹きいでてすべしらぬかなや指を遣るすべ ひやるろほろろ 黒檜 瞳人語 木魚と明笛        
太棹のびんと鳴りたる手元より夜のかなしみや眼をあけにけむ びん 桐の花 愁思五章 Ⅲ清元      
はろばろに波かがやけば堪えがたしぴんと一匹釣りにけるかな ぴん 雲母集抄 臨界秋景 水邊の午後        
金色の赤馬(あか)の尻毛のふつさりと垂れて静けき夕なりけり ふつさり 雲母集抄 閻魔の反射 田舎道        
ふはふはとたんぽぽの飛びあかあかと夕日の光り人の歩める ふはふは 桐の花 初夏晩春 Ⅳ春の名残り      
女童(われは)がふふむ笑ひはこの鞠のかがりの手あか愛(かな)しがりつつ ふふむ 黒檜 日光現象 良寛遺愛の鞠 その二      
ある時は大地の匂ぷんぷんとにほふキヤベツの玉もぎて居り ぷんぷん 雲母集抄 三崎新居 ある時は        
へらへらと蟇は土より音哭(ねな)きして春なりけりや月ほそく出ぬ へらへら 黒檜 瞳人語 春寒        
月の夜の堆肥の靄に飛ぶ蛍ほつほつと見えて近き瀬の音 ほつほつ 雀の卵抄 葛飾閑吟集 蛍四章      
ぽつぽつと雀出て來る残り風二百二十日の夕空晴れて ぽつぽつ 雀の卵抄 葛飾閑吟集 田園の立秋 二百二十日      
日もすがらひと日監獄の鳩ぽつぽぽつぽぽつぽと物おおはする ぽつぽぽつぽ 桐の花 哀傷篇 Ⅱ哀傷篇      
引橋の茶屋のほとりをいそぐときほとほと秋は過ぎぬと思ひき ほとほと 雲母集抄 臨界秋景 山中秋景        
ほとほとに戸を去りあへず泣きし吾妹(わぎも)早や去りけらし日の傾きぬ ほとほと 雀の卵抄 輪廻三鈔 別離鈔 別れ その時    
むきむきに飛べばつれなし二羽三羽雀垂穂の野にひるがへる むきむき 雀の卵抄 葛飾閑吟集 田圃の晩秋 向ひ風      
めらめらと火の燃えつきし幻覚も障子に消えて雪曇りなり めらめら 黒檜 短日童女 雪空        
夏祭わつしよわつしよとかつぎゆく街の神輿が遠くきこゆる わつしよわつしよ 桐の花 哀傷篇 Ⅱ哀傷篇      
喨喨とひとすじの水吹きいでたり冬の日比谷の鶴のくちばし 喨喨 桐の花 哀傷篇 Ⅲ続哀傷篇 十二      
木橋の上と下とを眞白きもの煌煌として通りけるかも 煌煌 雲母集抄 新生        
煌煌と光りて動く山ひとつ押し傾けて來る力はも 煌煌 雲母集抄 新生        
煌煌と光りて深き巣のなかは卵ばつかりつまりけるかも 煌煌 雲母集抄 新生      

 

 おわりに

前回分とあわせて、203の作品を拾った。

そのなかで22が「あかあか」だったことは、ひじょうに興味深かった。

以上、生状態でのデータとして記録しておく。