望月の蠱惑

enchantMOONに魅了されたので、先人の功績を辿って、自分も月へ到達したい。

涼宮ハルヒの憂鬱は見ていない そこに 押井守さんが天使を連れてくるわけ

S君のレクチャー

S君に「涼宮ハルヒの憂鬱 一期放送順第6話・8話『孤島症候群(前後)』」の話を聞いた。

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この「ミステリー回」の説明をするにあたって、S君からこの作品の基本事項をざっくりとレクチャーしてもらった。

 ハルヒさんは、たいくつでストレスがたまると、日常を書き換えてしまう。それは世界の破滅をもたらすので、宇宙人と未来人と超能力者と主人公が、ハルヒさんが何事もなく暮らせるよう、気を使っている。主人公以外は三つ巴。互いに好戦的ではないが、協力もしない。未来人は自分がいた時点までの未来がわかる程度。宇宙人は力をもっているけど、傍観的。超能力者は裏の世界では力を発揮できるが、日常的にはふつうの人。ハルヒさんに危害を加えようとする連中もいるので、そういう連中からハルヒさんを守るのも役割。ハルヒさんは神様のような存在。

神様…

アンタッチャブルな神

 絶大な力をもつ神をなだめ敬い、お祭りするのだと、理解した。

 それはまさしく、アンタンチャッブルな「荒ぶる神」そのもののだと感心した。

 と同時に思い出されたのが、押井守さんの「迷宮物件」だ。

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 無邪気、気まぐれ、幼児そのものの神様が、その子供の想像力で飛行機を鯉に変貌させてしまうといった話。押井さんによれば、これは『天使のタマゴ』の後日談だという。女の子が大事に守っていた卵から孵ったのがこの子だというのだ。であるならば、それは神の子であり、神の力にあふれて、人間と神とをつなぐものでなくてはならない。だがこの神は、人間の都合など気にも留めず、世界を玩具にするだけだ。

無関心な神

 なぜ、神のくせに人間のことを考えてくれないのか?そう思うとき、内田善美さんの『星の時計のLiddel』で葉月さんが発した言葉

『神さまは人間が死んでも悲しまないわ。人間が死んで悲しいのは人間だけ』

が、迫ってくる。

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 神は永遠普遍だといわれている。そのような存在であるのなら、有限偏在する人間の「感情」なぞ全くとるにたらないことであるに決まっている。人間にとっての、単細胞生物以下の存在だ。そんなものが下手に神と交わろうとしたら、一瞬で消し潰されてしまうだろう。

参考画像 伊藤潤二 『潰談』

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アンタッチャブルな神

 人間は人間。神は神。『仏ほっとけ、神かまうな』という常套句が思うかぶ。

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 この言葉は、口うるさい人や上司などを、示し合わせて「神や仏みたいな位置に押しやって」触らぬ神に祟りなしを決め込もうという、いわば厄介払いを表すものだ。ともかく面倒だから関わりたくないという気持ちの表れである。人からも神からも。

神がやらなきゃ

 パトレーバー2でも印象的なセリフ語られた。

 荒川と後藤のダイアログで、平和ボケした日本人は、現実を思い知らされるのだというようなことを語る荒川に対し、そんなことをだれがするんだ。神様か?と後藤がたずねる。荒川は全てをテレビ画面のあちら側としてとらえてている日本人こそが何もしない神。何もできない神だと断言し、神がやらなきゃ、人がやる。いづれわかるさ。と締める。

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 思えば、『うる星やつら2 ビューティフルドリーマー』について押井さんは、

ラムという主人公は、なにもしないんです。ただ夢を見ているだけ。

というようなことを言っていた。

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 その夢を具現化するのが「夢邪気」である。

 何もできない神の下で、神と人とをつなぐ位置にいる妖怪。とするならば、天使もまた妖怪である。

天使

天使のたまご に登場する天使の化石のインパクトは大きかった。

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そして、『攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL』において、素子と人形遣いとが融合するイメージシーンにおいて、一瞬天使が現れる。

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原作では、飛び立つ足元と舞い落ちる羽が描かれていて、押井さんはそのコマから、映画化できるとの確信を持ったと、どっかで言っていたように記憶している。

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 神が、直接人の世界に影響を及ぼしてしまうと、飛行機が鯉になったり、夏休みが終わらなかったりして危険だ。だから人間界から神に進言してくれる仲介者が必要となる。それが天使という妖怪なのだ。(だから堕天する危うさを常にもっているわけだが、それはまた別の話)

おわりに

 『エンドレスエイト』の一部始終を目撃しながら、その展開に全く介入できなかった視聴者たちは押井守的神の視座に追いやられていたのである。

 作品内では宇宙人が傍観者の立場にいたのだそうだが、宇宙人は∞8をどのように捕えていたのだろうか。私はこの作品を見ていないので、分からないが興味深いところだ。

 それにしても、終わらずに繰り返される夏休みは、繰り返される文化祭前日の狂騒を思い起こさせ、けっきょく最後まで押井守さん方面へとずれていってしまうのであった。