ネタバレありです。ご注意ください。
まずは、14-12「陣川という名の犬」との相違 mochizuki.hatenablog.jp
犯人設定
14-12 まごうことなき犯罪者。(共犯の方は別として)
15- 3 まじめな常識人。
偶然性
4-12 余命宣告を受けた犯人は、自分の本当に切り裂きたい顔を切り裂くために訪れた場で、守りたい男にであい、彼を守ろうとした。
15- 3 余命宣告を受けた犯人は、「目の前の家に飛び込み営業してこい」という上司からの命令で、人のためにできることと遭遇した。
説得
14-12の犯人は完全に振り切っていて、右京さんも説得をしなかった。
15ー 3の犯人は、ただの馬鹿真面目だったので、右京さんの説得に応じた。(なんで応じたんだろうって思いますけど)
爽快感
14-12は、男を守る(逃がす)ことはできなかったが、自分のしたいことはできたし、人のためにやるだけやったと言い切れる爽快感があった。
15- 3は、「俺、なぁーんにもしてないや」その上、余命宣告の間違いの可能性も。
では本題
余命宣告
アリとキリギリス 石井さんは、今回の役柄(谷中)によくあっていた。馬鹿真面目で感情を表にあらわさず、熱意はあっても暴走できない男がそのままのテンションで普通に暴走を始める。
余命宣告をうけ「自分の本当にしたいことをしよう」と決めたが、何をすればいいのか思いつかない。だから偶然に遭遇した「娘の敵をとれなかった父」のかわりに敵を討とうと決める。決めてしまえばあとは、真面目にコツコツ。守るべきものはないし、納期(命)は短い。迷っている暇はない。
ペース配分
ドンペリタワーに500万つぎこむのも、暴力団事務所ではピストルを商っているはず、と事務所へ乗り込み、堅気が来るなといわれたら、一週間で背中一面に彫り物をいれて、再訪する。それまで保険のセールストークはうまくいったことがなかったのに、敵となる男とその妻に接近するためとなれば、難なく面談までこぎつける。
「人は自分が死ぬってことを考えない。でも余命宣告を受けると考えるんですよ。死ぬことをじゃない。生きるってことをです」
と男に語る谷中さんは、自分が男を殺すのではなく、男に自分を殺させることで、殺人犯としての命を全うさせることをえらび、確実に計画を遂行していく。
真面目に捨て鉢な男の態度は、自分の目的のためには誰だろうと手段にすることが正当化されるのだという狂信に裏打ちされ、かかわる人間の熱を奪い、周りを屈服させる(普通っぽいのにずれまくってしまった人のこわさは、アリキリの名作「耳」を彷彿とさせる)
それができるなら初めからやっていれば、と傍目には思うが、ゴール前の距離がわかったからこそのペース配分なのだ。この期間、谷中さんは充実していたことだろう。
打ち砕かれる谷中
サスペンスの定番の崖で、計画の全てを暴かれた谷中さんは右京さんに言う。
「すごいなぁ。本当にすごいや。みんなメチャクチャにして」
そして崖へ向かう谷中さんに、右京さんの詭弁とも思われる説教が始まる。
結果的に、男は殺人罪を問われることになるが、それは、娘の自殺の原因をつくったという罪でも、谷中さん殺しの犯人としてでもなく、娘の父親の殺害犯人としてだった。結局、父は自らを殺させることで男を殺人犯にすることに成功したのだ。
「俺、なぁーんにもしてないや」とはまさにこのことを言ったのである。
復讐? 金ずる?
谷中さんが敵の居所を突き止め、父親に教えてすぐに、父親は、その男を何度も強請っていた。自分の娘の自殺の原因が、もとホストの男に貢いだ挙句の借金苦だったという過去を、妻にばらされたくなければ、というネタだ。(金目当てなら、強請りが成功した時点で、父は谷中に復讐の中止を申し入れるのではないか? それをしなかったということは、それが父の復讐だったというふうに、とれなくもないが…)
娘を思う父の願いが、谷中の正義を支えていた。それが揺らぐ。男は叫ぶ。
「あの父親が娘のことを思っていたなんてことあるわけない。あいつは娘の命を金にかえていたんだぞ」
変節?
その言葉を遮るように、右京さんが驚くべき言葉を発する。
「だからといって、父親が娘のことを思っていないないとはいえないと思いますよ。そういう復讐だってあるということですよ。現に、あなたはそうやって苦しんだのですから」
今回の話で、もっとも重大なのは、このセリフだ。
右京さんは、恐喝を復讐の方法として正当化している。元来復讐そのものを認めていないという前提はあるかもしれないが、この話では、一貫して、元ホストの男が悪であり、父は善であった。
ホストが客に貢がせる。その結果自殺する。ホストは罪に問えない。それはある種、当然のことで、右京さんが男を悪人扱いする理由にはならないはずだ。それなのに、今回は、この男が殺人の標的であることが明らかであるというのに、過去を妻に黙っているから、という理由で、殺されるのは自業自得だという接し方をしている。これは、杉下右京にあるまじき態度である。(どこかの時点で、男が父を殺しているとの嫌疑をかけて捜査しているはずだが、それがどの時点からかは不明だ。しかし、だからといって、殺されて当然という態度を、これまで右京さんはとってこなかったはずだ)
これまでの相棒なら、仏壇に残された十枚ほどの銀行封筒を見て、体を震わせ「僕としたことが、そうだったのですか… 冠城君いきますよ」とかいうべきところだ。
杉下右京は変節したのか? それはシリーズを通して見ていきたい。
おまけ
ホストクラブの店長が、妙に親切だった。個人情報の取り扱いも完璧だし、谷中の金の使い方も心配していたし、谷中との約束も完全に合法的に自らの尽力で果たしていた。
想像するに、元ホストが敵として認識されるための回想シーンが、大幅にカットされたのではないか? その過程で、店長が男を馘にし、警察関係とのやり取りのなかで、もろもろの対応が慎重になったのだという設定があるように思われる。
とするなら、娘がホストクラブ通いをするシーンはカットすべきではなかった。
そこをぼかしておくことで、実際はどうだったのかという含みをもたせたかったのだろうか?その場合はやはり右京さんの変節が疑われるのだが。
さいごに:ダークナイトを払拭して映画へ
14-15「警察嫌い」で登場した青木年男さんが、レギュラーとなった。
頑なに警察を憎む青木さんについて、右京さんも冠城さんも興味を抱いていたはずだし、父親が警官だということの分かっているのだから、内偵は済んでいるはずだ。
だが、今のところそれにたいする不信は確信に及んでいないようだ。(そうふるまっているだけなのに違いないが)
ダークナイトの轍を踏まないよう、念入りにしこんでいただきたい。また、警察学校では冠城さんと同期とのこと、そこには教官となった米沢さんもいたはずなので、今回ワンチャンスあるかもしれない。ついでに、非協力的となった鑑識から、米沢さんを師とあおいだ早乙女さんの登場も期待している。
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四面楚歌こそ特命課とはいえ、今の状況では、冠城さん、青木さんがもってきた事件に嬉々として飛びつくだけの、おじいさん探偵のようだから。
映画にむけて仲間由紀恵さんとロシアと子供と法務省の話もある。癖のある連中が盛りだくさん。なんとか石坂浩二も悪カッコよく使ってもらいたい。 以上