望月の蠱惑

enchantMOONに魅了されたので、先人の功績を辿って、自分も月へ到達したい。

二人のトマノ ~演劇女子部「続・11人いる!東の地平・西の永遠」 モーニング娘。'16 を見て

東の本気、西の狂気

三回泣いた

 京都でのWEST公演初日、佐藤優樹さんが凄い! との膨大なツィート。また、監督から佐藤さんへの熱い熱いメッセージ。DVDが届いたら、また佐藤さんのことで、ブログを更新できるな、と心待ちにしていました。

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リリース詳細|ハロー!プロジェクト オフィシャルサイト

 そして届いたDVD。なんとなくEASTを見て、それから一週間後WESTを見ました。WESTで三回泣きました。

WESTの熱量

 WESTが好きな理由は、石田亜佑美さん演じるフォースと牧野真莉愛さん演じるチュチュの、殺意に狂う眼です。石田さんの表情はWESTを通して素晴らしいし、牧野さんが邪悪に染まるところは必見。(私は牧野さんに、エコエコアザラク黒井ミサ的な役をやってもらいたい。はまると思うんですよ。ダークヒロイン)WESTはEASTに比べて、全体に熱量が高く、振り切っていたように感じました。まだ一回ずつ見ただけの感想にすぎませんが……

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二人のトマノ

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トマノとバセスカ

 今回のDVDを見て一番印象に残ったのは、EASTでは佐藤優樹さんが演じ、WESTでは尾形春水さんが演じた「トマノ」でした。そして兄であるトマノを差し置いて(というかトマノには適正がないと判断されたのですが)王となった弟バセスカをWESTで演じたのは佐藤優樹さんです。(ちなみにEASTでのバセスカは譜久村聖さん)つまり、佐藤優樹さんは、飲んだくれの兄と、王としての弟との両方を演じています。佐藤さんの高評価は、WESTのバセスカ役に対してのものでした。

野心と童心

 EASTでのトマノ(佐藤さん)とWESTでのトマノ(尾形さん)を比較したとき、佐藤さんには野心を、尾形さんには童心を感じました。
 童心というのは、子供の心、幼さ、もっといえば、白痴的なものです。鬼ごっことかで、つかまっても鬼にならなくてすむ「豆腐」というシステムが、現代にも残っているかどうか不明です(39条的なもの? ―これままた別のお話です)が、尾形さんのトマノからは、そうした無垢さが感じられたのです。

 お酒もおいしいから飲んでいる。誰にも注意されないから、飲み続けているのです。たまに、バセスカなどに注意されたりすると、こそこそとバパ大臣など自分を守ってくれる人の影に隠れる。それは、本当に怖いからです。

「俺が王様になったら、酒だって飲み放題!」

 このセリフは、尾形さんのトマノが、バセスカ追放の策略をめぐらす連中に「王様になったら、お酒だって飲み放題なんだよ」とか唆されたことを表しているように感じました。そんなら王様もいいもんだねぇ~って、軽い感じのセリフです。
 佐藤さんのトマノの場合は違います。「俺が王様になったら、いま、貧乏なこの国を、俺の力で豊かにするから、酒だって飲み放題になるんだ」という気概、弟への当てこすり的な感情で叫んでいるように感じました。
 佐藤さんのトマノは、弟に王位を奪われた口惜しさがあり、それを紛らすために酒びたりになっているのだと感じます。世が世なら、自分が王だったのだという気持ちが、弟への憎しみとなり、なにかのきっかけで、自分が王位についてやるのだという野心に満ちているのです。

与太郎

尾形さんのトマノ

 尾形春水さんのトマノは、落語でいう「与太郎」なのです。とくに何も考えず、その場その場で楽しいことだけしていられればいい。正義感とか、義務感とか、どうでもいいのです。面倒なコト、怖いことからは逃げたい。守ってくれる人についていきたい。喧嘩なんかしたくない。(これは立川談志さんの「与太郎」ではなく、古典的な馬鹿の与太郎のキャラクターです。馬鹿のフリをしている与太郎なんて、単に嫌な奴です。そこをもう一段も二段も超越したところに、談志さんの与太郎はあるのだと思いますが、それはまた別の話です)何も考えずただ遊んでいたい。そういう感じです。

 最後に、謀略が暴かれるという窮地に陥ったとき、尾形さんのトマノが、真実を告白して逃げ出すのは、単に、怖くなったからです。部屋から出てこないのは、自分を守ってくれる人がみないなくなってしまったからです。

 仮に、王位を奪えたとしても、バパ大臣が思いのままに政策をすすめるなかで、ことあるごとに、トマノが駄々をこねたり、王らしからぬふるまいが国民の噂になったりするので(ただでさえ、適正なしと判断されているのです)いずれ、病気ということにされ、軟禁状態、もしかしたら、地下牢あたりへ幽閉されてしまうかもしれません。トマノもまた、周りに翻弄された一人の気の毒な人だったのです。

佐藤さんのトマノ

 佐藤さんのトマノは、その意味で、小悪党にすぎません。だから、最後の謀略が暴かれるかもしれないという窮地に陥ったとき、さっさと真実を告白し、部屋にとじこもってしまうのは、わずかながらの良心の呵責もありますが、それ以上に、真実を告白することで、自分はただバパ大臣にのせられただけだという証明になるのではないかという、保身の念があったのだと思います。
 仮に、王位を奪えたとして、佐藤さんのトマノは、あまりに口うるさく国政に口出しするバパ大臣を煙たがり、ドゥーズのゾンブルあたりの口車にのせられて、バパ大臣を謀略によって排除してしまうかもしれません。そしてその後は、ドゥーズに全てを奪われてしまうことでしょう。 

尾形春水さんという存在

 私は尾形さんの演じているトマノを推します。と同時に、尾形春水さんのことが気になり始めています。

 モーニング娘。に入って、尾形さんはどうなりたいのでしょうか。トマノのように飄々と、大きな欲をもたず、ただ楽しい時が過ごせれば幸せなんだという、涼やかで執着のない雰囲気。ムードメーカでありながら、どこか冷めている彼女からは野心が見えてこないのです。

 整った顔、穏やかな声音が、尾形さんを制限しているように感じます。おそらく、尾形さんは尾形さんであることに馴染んでいないのではないかという、奇妙な感想を持っています。
 本気を出していても、本気を出しているように見えづらい。どのような経緯があったのか、調べていないのでわかりませんが、尾形さんがスケートをやめた(諦めた?)時、他の大事な何かを失ってしまっているのではないかと…
 無責任ではありますが、尾形さんにトマノ役がはまった理由を考えるとき、ふとそんな老婆心が頭をもたげます。

 本気を出した尾形春水さんを、私たちはまだ知らない。その姿をモーニング娘。というグループで発揮しているところが見たいです。

さいごに

 与太郎は、社会を解体する立場にある。というのが立川談志さんの与太郎論です(と思います)尾形さんが、本気を出した時、モーニング娘。は解体する。けれど、メンバー達の意思によって再構築され、さらに更新され飛躍する。そんな期待をしています。

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