甲午最初の記事は、これまでと趣向が変わる。
enchantMOON縛りはもう、やめた。プログラム知識がないと、続けるのは無意味。
さまざまな先人の足跡をたどって、月へ、の気概は変わらないので、問題なしと強弁。
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豹変一回目は、こないだたまたま見たアニメをレビュー。朝9時からよる9時までで、全22話+OVA1話を完走。よかった。本当によかった。
それは、『氷菓』というアニメ。
美少女路線の京アニとしては変化球なのだと、知人はいう。
『氷菓』詳しい内容はwikiも、TVアニメ「氷菓」オフィシャルサイトも、作者のブログもあることなので、除外。はまったのはアニメ。本屋には5作目の文庫本『二人の距離の概算』の第十刷が並んでいるが、見ないようにしている。あくまでもアニメ版でハマった。
なぜ、ハマったのか。要素は4つだ。
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ロケーション
モデルは、岐阜高山市だという。ここは学生時代、写真部の合宿で訪れたことがあった。商店街の背の低いアーケードに、富田靖子さんのデビュー曲SWEETがエンドレスで流れていた。その時の印象が、すこぶる良かった。話中に描かれている神山市の様子が、瑞々しくてたいへん好みだ。
また、ヒロイン千反田さんの家が、静岡県掛川市の菖蒲園だという点、ちょっとしたエピソードとして、静岡県浜松市の浜名湖のオオウナギオッシーが取り上げられる。この二箇所は私の地元にすこぶる近い。親近感が湧く。
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学校生活(放課後の郷愁)描写
かつて送っていた学生生活において、最も印象的な時間が、放課後であったこと。放課後とは、事後である気だるさと開放感。部活感覚も含めて、一日のうちの第二幕(帰宅部にとっては、幕間か)という感じがあって、私にはたいへんに、思い出深い時間だった。
参考 押井守『 Beautiful Dreamer』
ゆうきまさみ 『究極超人 あ〜る』
社会人となってから、この放課後感覚に近かったのは、片道2時間の電車通勤時間だったろうか。旅行にでかける電車の中、というのが最適なのだが、頻繁に味わうことは、時間と金とが許さなかった。貴重な時空なのである。
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ミステリーとしての興味
第一エピソード『氷菓』がもつ、案外ハードな現実に、たんなる青春学園物とは違う渋さを感じてハマった。これはそれぞれのキャラクターの造形にもつながっている(後述)
『古典部』という設定だけあって、トリックは王道だ。思い出されるのは、
・恩田陸『像と耳鳴り』
・石持浅海『座間味くんシリーズ』
といったあたり。(古典作品からの引用については公式やWIKIに書いてありますよってに)
私に印象深かった事件としては、
・氷菓。断片的文献から45年前の出来事をつなぎ合わせる
・愚者のエンドロール。中断されたミステリーの脚本を完成させる。
参考:押井守 『Talking Head』
・クドリャコフの順番。規則性ある犯罪から、犯人のメッセージを汲み取る。
・『神校史』同日返却事件。
・教頭の呼び出し放送の真相事件。
・音楽室月光の幽霊事件。
・首吊りの影事件。
など。当事者にとっては謎でもなんでもないことでも、部外者からすれば、奇妙だったり、怪談じみたことに感じられる。そういうことに敏感なヒロイン千反田さんの
「私、気になります!」
という好奇心にあてられて始まる、折木くんの淡々とした推理と説明。なんともいえず、心地良い。
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キャラクターの魅力
ああ、私はこうなりたかった。この場合、性別を超えて、折木くんにではなく、千反田さんのような心をもてたらば、どんなにいいか。菩薩道です。観自在菩薩……
彼女は、天然のようで、豪農の旧家の跡取りとして、父の名代としての役割をきちんと果たす。 ある男を「みんなの面目をつぶしても平気そうだから」という理由で犯人と名指したり、人の噂を気にして、助けを拒んだりする。自分の集落の将来についての捉え方は、冷徹で的確であり、そこで自分の家の責任として自分が何をなすべきかも、なかば諦観ともいえる潔さで受け入れていこうとする。気高く立派な中に、それだからこその、悲しみを感じさせる。彼女は故郷をすてることができるだろうか。これもまた古典的な展開ではあるが。
このアニメの魅力の大きな部分は彼女のキャラクターに負っている。
探偵役 折木くん。なんでもできて、活動的な存在である「姉」がいたからか、勝負しない性格。でも、活動的な人に憧れもあるようで、福部くんに対する羨ましさをのぞかせたりもする。彼の魅力は、疲れないための物静かさ。動じず、冷酷なこともある。彼がどのように変わっていくのかは、大きなテーマだろう。が、じつは彼についてはそれ以上のことはない。ホームズのようにキャラが立つほどの癖はない。
福部くん。彼の陰影の深さが大きな魅力だ。勝つことにこだわっていた中学時代から、勝負しなくなった高校時代。目の前に圧倒的な才能をおいて、彼の屈託は解決されない。諦めでもなく、保留でもない真の解決とはどこにあるのか。『こだわらないことにこだわる』こだわりのジレンマ。これも古典的だが、あまりにも明るい表層の、陰はとてつもなく深い。
井原さん。彼女もまた、福部くんと似た屈折をもつ。才能を見抜けるため、自分の才能の無さにも気付いている。だが、諦めるのは悔しい、という相克に激しく揺れ動いている。
自分とは、何者なのか。みんなここで悩んでいる。しかし、男はダメだ。自分のモットーに逃げこんで、そこに縛られている。女性陣の自己認識は、その意味では男性陣よりも苛烈にリアルである。
女性は幼い頃より、社交的である。常に他人を見て、他人と競うという環境にある。(外見を飾る、という点で)その分、自己認識についても点が辛くなるのではなかろうか。
さいごに
さて、この『古典部シリーズ』は、彼らの卒業まで作成するそうだ。(小説作者発表)それらを全てアニメにしていただきたい。できれば、5年以内には。そうしなければ、
全てが古典になる。
以上