望月の蠱惑

enchantMOONに魅了されたので、先人の功績を辿って、自分も月へ到達したい。

生命

なまなましいなまやさしさ ―松本てふこ句集『汗の果実』読後感

youshorinshop.com はじめに 風物から人物。静物から印象。詩から事実。 松本てふこさんの『汗の果実』という句集には、章立てのようなものがあり、順番に「皮」「種」「汗」「蔕(へた)」となっており、「ブドウ狩り」かしら、などと思うのはこのように書…

手帳の抜書の抜書202101-03 その2

(前回の続き) 『アドルノ 新音楽の哲学』より 音楽は仮象の欠如、すなわち形象をつくらないことによって他の芸術に対して特権をあたえられてはいるが、しかしその特殊な関心事と因襲による支配との倦まざる和解によって、力相応に、市民的芸術作品の仮象的…

宮沢賢治の短歌(序説) ―不定形生命体という主体

はじめに このところ、短歌入門関連の書籍を立て続けに読んでいて、直近に読み終えたのは、この本だった。 www.kadokawa.co.jp 短歌の入門書としてどうか、というのは人それぞれにあうあわないがあるだろう。わたしは、俳句や短歌の入門書を読んで、作りたく…

即身仏と割腹 ――速度と重力について

はじめに 『身体の宇宙誌』のメモを作っている。以下は再読を始めたばかりのころの感想文。 『永い屁(自作小説)』では、明確に「即身仏」を打ち出すこともなく、したがって「即身仏」の速度、つまりは肉体の速度から逃れるために必要な自由落下に関するこ…

真如の分節により生じた「エロス」から考える「未来」の在り処 ―輪廻と映画の比喩の問題点

はじめに 仏教では存在をは、 ①「無常」だから「物はない」 ②「縁起」だから「物はない」 と考える。 「無常」とは、「存在する物はそのまま存在し続けることはない」ということを表している。なぜ、そのまま存在し続けることができないのか、といえば物は複…

『心を操る寄生生物 感情から文化・社会まで』 のおもしろいところ

はじめに 紹介されて読みました。『心を操る寄生生物 感情から文化・社会まで』 www.intershift.jp 人間の文化・社会は、基本的に「差別」から発生し、その根本原理は、寄生生物、感染症への恐怖による心理的抵抗である。という話がメインで、これはこれでと…

真如はなぜ分節する性質を持つのか ―『意識の形而上学』が竜を呼んだこと

はじめに 『東洋哲学覚書 意識の形而上学 ―大乗起信論の哲学』井筒俊彦著 を読んで、新たに拓けた知見について記す。 問題意識 こうした本を読むとき私はいつも以下の問いを解決したいと考えている。 「真如はなぜ分節するのか」 真如の私的定義 私にとって…

『生存する意識』読書メモ -臨床的な意識とは

はじめに 『生存する意識 植物状態の患者と対話する』エイドリアン・オーウェン(柴田裕之訳) 2019.9.18第一刷 みすず書房 を読んだ。 この副題を読んで即座に思い出されるのは、世にも奇妙な物語で、竹内結子さんが主演した『箱』である。 www.youtube.com…

えらびもえらばれもせずとんぼである  ―人として生きるすべ

はじめに 生物はそれぞれの形と生き方とが直結している。移動方式、行動様態、食性、生息域、繁殖様式などは、そのフォルムと切り離すことができない。 それは「制約」である。が一方、そのように身体即環境といえる存在の仕方は、人間の及びもつかぬほど「…

『〈こころ〉はどこから来て、どこへ行くのか』 中沢新一さんの講演メモ

www.iwanami.co.jp はじめに 京都大学の「第一回京都こころ会議(2018.9.13)」の五つの公演をまとめたもの。中沢新一さんが基調講演を行っていたため、読んだ。 印象として、中沢さんは、「脳」と「こころ」とに結びつけられる様々な分野の内容を、普段より…

『渦説』―存在様態としての心霊

はじめに #一行怪談創作部 というtwitterでの創作怪談コンテストへについて、『一行怪談』の作者は「怪談」をこのように定義している。 ただ、応募作品の中には「怪談」となっていないものも含まれていました。「怪談」の恐怖とはなにかと言えば(これも私の…

精霊の王 第七章以降メモとまとめ(『六輪一露之記』を中心に)

はじめに 『国家の原理が作動していない社会に生きるとき、人間にはどんな思考、身体感覚、どのような姿をした超越または内在の感覚がふさわしいのか?』 中沢さんは、「シャグジ=宿神」に、国家の原理によって汚染されていない思考の痕跡を見出そうとして…

精霊の王 第六章までの雑感 (天台本覚とアニミズム)

『精霊の王』中沢新一 講談社 2003.11.20初版 2003.12.19ニ刷 「生命」の問題 禅と密教 仏教は物質を否定する。 解脱とは物質を生み出す運動からの離脱だ。仏教にとって物質とは存在そのものであり、そのように存在を結んでしまった物質を解きほぐし、大いな…

尊厳死・安楽死・自殺

はじめに 全ての「義務」は外部から与えられた契約の片割れだが、「義務」に見合う「権利」は保証されていない。ならば「義務」は「義務」ではなく単に「命令」であり「無理強い」であり「隷属」の証でしかないのだ。 自然には「義務」などない。「生きるこ…

本性のXX  ー母性愛の非対称性

はじめに 母性愛は、母ー子という絶対的非対称性においてのみ成立する。母の立場が被る不公平さを、「無私の愛」とか「無償の愛」とか「愛の原点」とか「もっとも尊い愛」という風に言い換える社会は、なにかおかしい。というところから、考え始めた。 注意…

泥濘の公理系 ―言語・VR・貨幣

はじめに 「記号は意味を持たない」ここは絶対に譲れない。 意味をもつ記号は言語と呼ばれるべきである。従って、記号が「指示記号」であるなら、それは言語の別名であって「記号」ではない。 「記号」は何をもって「記号」たりうるのか?それは、単なる落書…

ぼんやりとした不安の原因「試論」 -能動的自我の齟齬

はじめからエクスキューズ 中動態の本、まだ半ばです。読み進めたらこのブログ内容もupdateしなければならなくなる予感はありますが、芥川さんや、啄木さんや漱石さんやなんかが取り付かれていた「ぼんやりとした不安」の原因について「試論」として書いてみ…

フィロソィア・ヤポニカ 1 p.81

はじめに しばらく前からこの本を読んでいます。中沢新一さんの著作としてはかなり硬質な文体で、読み進めるのに苦労しています。 しかし、とにかく、読んでいて興奮を禁じ得ない本なので、読書メモとして気が付いたことを書き留めて、読書の指針としようと…

動態学 ―存在はとめどなく、とどめない

動態学とは 始めにこの言葉をみつけたのは以下の雑誌 『リブラリア vol.0(1988年11月10日)』142p 【動態学】変化を動きのままにとらえる発想法 田中優子 一、社会や人類や文化や人間の動き(ダイナミズム)そのものの法則性を対象とする 一、…

微笑みながら餓死する豊かな心

要点まとめ トレードオフ 「真」の豊かさは心の豊かさ 「偽」の豊かさは物の豊かさ 物欲の囚人の心は貧しい、という風潮 満たされぬ物欲機関 「欲求」は「心」から起こる 「心」は欠落を埋めたがる その欲求は「物」に向かう 我々は、そのように仕向けられて…

唯脳から唯識が、資本主義からエネルギー問題を経て宇宙船艦ヤマトに至る話

脳=自然=普遍という経路 唯脳論復活? 唯脳論の駄目だったところは、脳だけで世界を説明しようとして、実は「社会」しか説明できなかったところだが、近代における「自我」によって霞んでしまった「他利」への抜け穴として、古層の神話的共通点を取り上げ…

意識と身体の変容 グレゴリ=ザムザと青島リカ

はじめに 意識は身体感覚の総体から生じる。その総体とは「脳」に集約される。意識の痕跡が記憶となる。 『変身』 毒虫の脳 一夜にして毒虫となったグレゴリ=ザムザが、昨夜までの記憶を持っているということは、人間の脳の形が保存されていなければならな…

AIに「死」を

今、好奇心が熱い AIに好奇心を実装しようという動きが俄かに活発化してるね! jp.reuters.com 実は、好奇心らしきものの実装はすでに試みられていたけど、 gigazine.net DQNに好奇心アルゴリズムを実装するという試みは、ちょっと期待しちゃう。 www.e…

外科医の詩情

はじめに 演出論なんちゃって 手術、死体、暴行、処刑、事故。人体欠損の様子を、真正面から映し出す演出が増えてきました。小道具の製作技術や、CG合成の技術が進み、高解像度でも作り物っぽくない臓物などを提供できるようになったのですね。 映像としての…

八百万の神の世における神ならざるものとは

この世の不思議 不思議=自然=存在 この世界にはたくさんの不思議があり、その大半は「自然=存在」に関係している。 その不思議と人間とは、どのような関係を結ぶことができるだろうか? 天の配剤 自然の傍らに過ごすほかない人間にとって、その天の配剤は…

生活保護 or 安楽死 QOL

ゴールが見えないと、全力を出せないタイプなので。 マラソン大会では、「ラストスパートが早すぎる」という理由で、「怠けていたな」と叱責されて、正座させられたりしてた。 人生、長くない? ただ、息しているだけの命なんて、自分にとっても不要だと思う…

女子高校生青春映画の王道 『アイコ十六歳』

アイコ十六歳 これまでで、最も好きな映画だ。 www.youtube.com 同時代性という贔屓目を差し引いても、30年以上にわたって、No.1であり続けるというのは、かなりのものではないか。その理由の大部分は、富田靖子さん演じる三田アイコさんの魅力によるもの…

D.Q.N.の報酬 そして 弥勒菩薩へ

Deep-Q-Network だよっ 大人になんてなりたくない! 『アルファ碁(1)』ですっかり流通した ディープラーニング。「速さ」の次は「深さ」ってんで、この名称を冠した「ナンチャッテ深層強化ニューラルネットワーク(2)(3)学習教材」が、雨後の筍状態だね。でも…

『心の社会』は工場の分業ラインとは違う気がするので

出会い この記事を見て、「絶対に読まねば」と勢いこんで図書館検索予約入れた。 wired.jp その本は、 彼は言う。 心は心を持たない小さなエージェントの集合体。 心とは脳の働きである。 それそれ、それ知りたかったこと! 著者? AIの偉い人(?)。人工知…

資本主義社会からの強制出家(在宅)

少子化・ボッチは素敵な果実 今の世の中って インテリジェント・デザイン進化説 先ごろ、ローマ教皇が、進化説も一つの仮説として認めるよ(1)。とおっしゃって波紋が広がった。「神は人を神の似姿として造られた」のでたぶん、人類については論議の外なのだ…