望月の蠱惑

enchantMOONに魅了されたので、先人の功績を辿って、自分も月へ到達したい。

レビュー

ブラックリスト ファイナルシーズン ―叙事詩としてのレイモンド・レディントン

はじめに ブラックリストについては、一度書いたことがある。 mochizuki.hatenablog.jp そして先日、ファイナルシーズンを全て見終えた。このファイナルシーズンは、ほとんど「レイモンド・レディントン」という名のスピンオフ作品と言ってよいものだと思う…

新傾向といふ新しさの類似性 ―『植物祭』前川佐美雄さんから野村日魚子さんそして河東碧梧桐さん

はじめに 似ていることは悪いことではない。似てくることをおもしろいと思う。似ていると感じる私の感覚が固着しているのかもしれないし、定型を脱しようとする試みが普段意識されることのない日本語の天井にぶつかって似通った放物線に収斂してゆくのかもし…

兵庫ユカさん『七月の心臓』から

はじめに もしかしたらこのブログで兵庫ユカさんの『七月の心臓』をとりあげていなかったのではないかと記事検索をかけてみたら、やはりとりあげていないことが分かった。だから、今回はこの歌集のことを書く。 作者のことや、この歌集のことは、検索すれば…

語句をシェアしてパズルのように ―意味を窯変させる技法

はじめに 自動生成される俳句や短歌。それらは、語と語のなじみある繋がりを無視できるところに良さがある。日常の脳で、語と語をそのような関係性に置くことは規制されてしまう。この規制が言語ゲームのルールだと思い込まされてしまうネイティブにこそ、ラ…

俳人 北大路翼さん

はじめに 先ごろ、こんな記事を書いた ずっと、北大路翼さんの句集を写していた。『天使の涎』『時の瘡蓋』『見えない傷』北大路翼さんの俳句が好きで、あえて言うならば「清濁併せ飲む」感じが、松尾芭蕉を継ぐという矜持を感じさせてくれる。全身小説家な…

仲良き事を慈しむ感情 ―枢木あおいさんと松本いちかさん

注意)今回のブログは成人向け映像作品に言及したものであり、関連リンクも貼っておりますことを、予めお断りしておきます。

大地震 トンボ ユウクリ 飛でいる ―熊谷守一語録

ことあるごとに思い出す。熊谷守一さんの作品は言葉によらない俳句であると思う。わたしは既に、熊谷守一さんについてのまとまった感想ブログを書いていたと思っていたのだが、過去記事検索してみると、まだ手付かずだった。 熊谷守一さんと高野素十さんとを…

自由律俳句を定形に戻してみる ―『井泉水句集』を読みながら

はじめに 昭和十二年一月七日発行 新潮文庫の『井泉水句集』は、いただいたものだ。この中の 星が出てくる砂にソーダ水の椅子 (p145) は、わたしに「キュビズム文」なる方法論を授けてくれた一句であるが、それはまた別のお話で。 わけのわからない衝動 座右…

穴埋め問題 ―『短歌の不思議』東直子

はじめに How to 短歌。そこには人それぞれにルールがある。文語か口語かなどの形式的な選択はもとより、短歌の文体について問えば、千差万別の目標と正解例が得られるだろう。だから、人はそれぞれが目指す短歌に沿ったHow to 本を選ばなければならない。「…

オムライス ――あるAV作品のAV部分以外の魅力について

はじめに 今回のブログは、アダルトビデオ作品への言及を含みます。該当作品へのリンク、及び露骨な性的描写などは行いませんが、こういった内容を快く思わない方は閲覧をご遠慮ください。 わけのわからない魅力 『若かりし頃の母親に似てきた娘との性交』と…

依他起性 ―フンボルト(という博物学者という点P)の冒険

はじめに 『フンボルトの冒険 自然という〈生命の網〉の発明』アンドレア・ウルフ著 鍛腹多惠子訳 NHK出版 www.nhk-book.co.jp 古来より、博物学者は蒐集する。整理・分類の情熱は、分けへだてるためではなく、共通点を見出すためである。なぜならば、この蒐…

波頭の橋頭保としての『認知症世界の歩き方』

これは座右に置くべき、こわい本だ。 wrl.co.jp 唯脳論だとか、唯心論だとか、VRだとか、すべてこの世は虚構だとか、そういう言説は理解できるところもあって、結局は「脳」だよ。という感覚は理解できていたつもりだったのだが、それが現実の、ひじょうに身…

盲目の俳句・短歌集 ―視覚障害者が詠む俳句三百句・短歌二百四十首 発行メタ・ブレーン

はじめに 探していたのだ。目が不自由な方の句集を。 俳句はあまりに視覚偏重にすぎないか、というのがその動機だ。 もしかしたら、言葉(名前)そのものが、視覚的なのかもしれない。声字と書字という観点(という熟語もまた視覚偏重なのだが)から、そう考…

オーパーツ俳句 ―寺山修司俳句全集から拾う

はじめに 俳句の新しさとは、たとえばこういった俳句に驚くところに感じる 口淫は嘔吐に終はる麦茶かな 星野いのり 起立礼着席青葉風過ぎた 神野紗希 ヒアシンスしあわせがどうしても要る 福田若之 簡単に口説ける共同募金の子 北大路翼 パラフィン紙夏の名…

詩はフレーズに宿るか ―『現代短歌の鑑賞101』より

はじめに 現代短歌の鑑賞101はひじょうに読み応えのあるアーカイブである。 www.shinshokan.co.jp明治三十六年生の前川佐美雄さんの「胸のうちいちど空にしてあの青き水仙の葉をつめこみてみたし」から、昭和四十五年生の梅内美華子さんの「蜜蜂が君の肉…

読みながら書くブログ 『俳句入門三十三講』飯田龍太 その3 22~ 33

さらに圧縮して記す 22 前衛と伝統 キリスト教は人間の生きざまを非常にこまやかに、ないしは微妙に、一貫して教えておるように思う。ところが、仏教のほうはというと、生きざまというより死にざまにほうにとりわけ重点を置いておる。 指先の草の匂ひが取…

Hello! Project presents「ソロフェス!2」私的MIP Best 3

はじめに 二回目があるとは思っていなかった「ソロフェス!2」 www.youtube.com 一度目は悲劇。二度目は喜劇といいますが、一回目があったからこそ二回目は、より楽しみでした。かくし芸上等、リベンジ上等。挑戦、深化、イメージチェンジ、なんでもOKな…

読みながら書くブログ 『俳句入門三十三講』飯田龍太 その2 7~ 21

前回からの続き。もっと圧縮しないと終わらないと気付く。 7 独自性と完成度 オリジナリティーはその作品の意匠ではないということを念頭におくことが肝要であり、完成度の高い作品ほど、その底に流れるオリジナルな味わいは強いのだと思う。 冬の滝ひびき…

読みながら書くブログ 『俳句入門三十三講』飯田龍太 はじめに~6

はじめに 読書が捗らない。思うことは多々あれど、読書経験という裏打ちがなければペラペラなブログでしかない。読んでから、書く。の読むができないから書く。も出来ない。そんなときのための「ざっくりさん」であり「メモ」である。だがしかし、書かないと…

なまなましいなまやさしさ ―松本てふこ句集『汗の果実』読後感

youshorinshop.com はじめに 風物から人物。静物から印象。詩から事実。 松本てふこさんの『汗の果実』という句集には、章立てのようなものがあり、順番に「皮」「種」「汗」「蔕(へた)」となっており、「ブドウ狩り」かしら、などと思うのはこのように書…

川本真琴|川本真琴 ―身体感覚の絶対性と弟への恋情

はじめに 初めて『1/2』のPVをワイドショーで見て www.youtube.com すぐに買いに走った。 川本真琴 1997・6・25 デビューアルバム「川本真琴」 www.sonymusic.co.jp 天才だ。と思った。 そしてこの人は早世なさってしまうのではないかと危ぶんだ。今…

「詩」以外の『戦後詩』を読む ―『戦後詩 ユリシーズの不在』寺山修司

はじめに 詩について語ることはできない。 詩を理解することができない。わたしは詩を散文のように咀嚼してしまうので。 寺山修司さんが好きだ。『戦後詩』は塚本邦雄さんの短歌を漁っていて見つけた本だ。 前衛短歌。寺山修司さんには、少女詩集もあり、詩…

ノリ・メ・タンゲレ ―ドーナツの穴に触れるとは

はじめに 肉体に関わる際、避けて取れないテクストは、『聖書』のイエス=キリストの受難と復活とその後日譚で、特に、ヨハネによる福音書に詳しい。 というより、「ノリ・メ・タンゲレ」は、ヨハネによる福音書にしか記載されていない。 マタイ・マルコ・ル…

身体を離れないこと ―『舞踏のもう一つの唄』を読みながら

はじめに モーリス・ベジャールさんだ。 www.shinshokan.co.jp 舞踊、武道、音楽、体操(スポーツ)に関する達人の方々の言葉はとても重要だ。なぜならば、そういう方々は身体を熟知しようとする方々だからだ。 私たちは身体として存在している。この存在の…

「写真」を「俳句」に置き換えて読む ――ルイジ・ギッリ『写真講義』を読んで

はじめに www.msz.co.jp 捨てられない絵葉書のような、密やかなイメージを撮りつづけた写真家ルイジ・ギッリ(1943-1992)。その何気ない一枚の背後には、イメージに捉われ、イメージを通して思考する理論家ギッリがいる。自らの撮影技術を丁寧に示しながら…

『サラダ記念日』を改めて初めて読んだ ――言文一致体へ

はじめに あまりにも有名な俵万智さんの『サラダ記念日』 www.kawade.co.jp 1987年に、短歌を一新したエポックメイキングな歌集。 『口語を使った清新な表現で』と紹介文にもあるように、当時は「ああ、短歌はこんなに自然な言葉で作っていいんだ」と、…

宮沢賢治の短歌(序説) ―不定形生命体という主体

はじめに このところ、短歌入門関連の書籍を立て続けに読んでいて、直近に読み終えたのは、この本だった。 www.kadokawa.co.jp 短歌の入門書としてどうか、というのは人それぞれにあうあわないがあるだろう。わたしは、俳句や短歌の入門書を読んで、作りたく…

挟み撃ちをスライスしてなんとなくクリスタルな純度98%の小説 ―『ヴィトゲンシュタインの愛人』 デイヴィッド・マークソン

はじめに 純度の高い小説は燃える。実際、この小説では本や家がよく燃える。そしてそこに残った焼け跡は、焼ける前よりも豊かだ。それは余剰によって豊かなのではなく、消尽によって豊かにされるしかなかった。抉られた傷に再生する肉片がつねに盛り上がるよ…

塚本邦雄『秀吟百趣』メモ 二

前回からの続きです。 飛鳥田孋無公(あすかたれいむこう) さびしさは星をのこせるしぐれかな 霧はれて湖におどろく寒さかな 河の水やはらかし焚火うつりゐる 返り花薄氷のいろになりきりぬ 秋風きよしわが魂を眼にうかべ 昭和五年三十五歳の作。この3年後…

塚本邦雄『秀吟百趣』メモ 一

はじめに 一気に読んで、そのつぶさな鑑賞と審美眼に圧倒された部分をメモしたので、清書の意味で記す。つまり、本ブログに私自身の言葉は無く、すべてこの本からのメモである。 何回かに分けるかもしれない。また、取り上げられた作者別に記していくが、「…